9月20日、この日は実母の命日である。
誰も知らない白昼夢
近くのカフェで時間を潰し、カテキョのバイトの時間がが近づいてきたので俺は席を立った。
今日は作田も奈那子ちゃんも、恋人の健太くんも用事やレポート期限のために、俺とは別行動。
カバンを持ち上げ、通いなれた道を歩く。
今日は金曜日なので女の子の生徒・雫ちゃんである。
「あ、先生…。いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
有名なお嬢様中学に通う雫ちゃんは、育ちのいい笑顔に性格でおっとりとしている。
俺が来るといつも嬉しそうに出迎えてくれるので、何だか嬉しい。
「先生、今日宿題がわからないの。」
「ん〜どれどれ。」
「ここの英語の部分。修飾語がたくさんあって、解りづらいんです。」
「まず、主語と動詞だけ探してもよっか。雫ちゃんは、どれだと思う?」
まるで妹と一緒に勉強してるみたいで、少し微笑ましい気分になるのは何故なんだろうか…。
家庭教師の仕事も終わり、8時には家路につく。
今日は健太くんと会う予定も、友達同士の飲み会も、ましては翔一との約束もないからゆっくりと歩ける。
すると夜道から突然、何かがぶつかって来た。
「お兄ちゃん!!」
それは幼い声と同時にぶつかり、俺の脚にしっかりとしがみついている。
恐る恐る後ろを振り返ると…まだ小学生くらいの小さな少年だった。
「お兄ちゃん!」
少年は嬉しそうに俺にしがみ付き、放そうとはしてくれない。
「…ちょっと待って、僕。」
「ん?なぁに?」
俺を見上げる顔はまだ愛くるしい。
「俺は、君のお兄ちゃんとは違うんだよ。ごめんね。どこかでお兄ちゃんと逸れちゃったのかな?
お家まで送って行ってあげる。」
少年と同じ目線になって、少し不安の色を見せた瞳。
チェックの長袖を着て、少し大きめのハーフパンツを着込んだ少年は首をかしげた。
「…でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?」
そう言っては、俺の方を見たのだった。
『で、坊や名前は?』
『飯塚友久。8歳。』
『お巡りさん、この子、俺の事お兄ちゃんって言うんですよ。迷子ですよね。』
『ん〜そのようだけど、迷子届がどこの管轄にも出されてないんだ。友久君、お兄ちゃんの名前は何か言えるかな?』
『友行、20歳。藍川って大学に行ってるんだよ。』
その言葉を聞いて、お巡りさんが俺の方を見た。
『…君、名前は?』
『高永友行です…』
『確か、聞けば君も藍川大学だったよね…?』
『でも苗字が違います。』
『…そっか。じゃあ偶然か。友久君は母親が見つかるまで、警察が保護するよ。』
その時、俺は何故そんな言葉を口にしたのか、自分が不思議に思える。
『ちょっと待って下さい…。あの、』
「っと言う理由で――」
日曜日は健太くんが俺の家に遊びに来てくれる約束だったのを、すっかりと忘れていた。
「高永さんが、その友久君を預かる事にしたんですか?」
「そ、そうです。」
昼過ぎに俺のとこまでやって来た健太くんは、予想もしていなかった展開に少し戸惑っていた。
だって鍵を開けたのは、見知らぬ子供だったもんだから。
「お兄ちゃん、これ、飲んでもいい?」
「ああ、いいよ。待って、コップ取ってあげるから。」
「はい!」
俺は立ち上がって、友久が飲みたがってるジュースをコップに注ぐ。
友久は心底嬉しそうに、俺の仕草を眺めてはニッコリと微笑んだ。
「…ごめんね、健太くん…」
「何がですか?」
「折角、遊びに行く約束してたのに…」
「いいですよ、別に。また今度遊びに行きましょう。」
健太くんは嫌な顔一つせずに、ニッコリと笑ってくれた。
案外、子供が好きなのかもしれないね。
今だって、友久くんを抱き上げてはクルクル回して遊んであげてるしね。
…なんか、俺と健太くんの子供みたい…って思うの、友久くんにしては不謹慎かな?
「ねぇお兄ちゃん、」
元気一杯で遊んでいた友久くんは少し汗をかいて、俺のとこまで走って来た。
健太くんも遊んであげていた事もあり、少し汗をかいている。
「ん?なぁに友久くん」
「僕ね、ずっとお兄ちゃんと会いたかったの。だから、やっと会えてすっごく嬉しい!」
小さな体で俺に抱きつく。
「高永さん、お兄ちゃんですね。」
安心な顔を見せて友久くんは、俺のとこで眠ってしまった。
気持ち良さそうな寝息が、俺たちにも眠気を誘うのは、気のせいだろうか…?
「あ〜あ。寝ちゃった。高永さん、ベッドの運んでもいいですか?」
「あ、うん…。」
健太くんは、友久君を起こさないように抱き上げ俺のベッドまで運んでくれた。
そしてようやく、俺にも一休みの時間が訪れたのである。
→