4年前の今日、この大きな時計の下で君と約束をしたね。


**君のこれからの幸せを**


あの時、俺はまだ高校生だった。

進路の事で悩みもしたが、毎日がただ楽しく、のんびりと過ぎていった。

「え?お前、上京すんの?」

「ああ。」

男同士だけど、付き合ってる勇治はあっさりと俺にそんな事を言った。

「でもまだ悩んでるんだけどね。」

「じゃ、じゃあさ、俺と一緒の大学行こうぜ。その方が絶対楽しいって。」

俺はなんとかして勇治と一緒にいたくて、引きとめようとした。

思えば勇治は前々から上京の事を考えていたのだ。彼の部屋へ行った時に見つけた住宅雑誌。

その時は何にも考えてなくて見過ごしていた。

「でも俺思うんだよ。」

学校帰りの公園のベンチ。塾も委員会も何もない日はココでこうやって寄り道をして帰っている。

「本当にこのままでいいのかなって。男同士で恋人なんて世間ではやっぱ肩身が狭いし。」

「お、俺のこと嫌いになったのかよっ。」

「そんな事言ってないだろ?尚也の事は好きだよ。」

「じゃあ何で…」

何で今更そんな事言い出すんだよ。お前は俺とずっと一緒にいたくないのかよ!

俺はお前と同じ大学行って、一緒に住んだりするのを考えていたのに。

同じ大学じゃなくてもいい。俺の近くにいてほしかた。

「少し距離を置いた方がいいと思うんだ。お前はコッチに残るんだろ?俺は東京に行く。」

明日は進路決定の用紙を提出しなければならない。

「俺も勇治と同じ大学に行く!それならいいだろ?」

「お前、本当にソレでいいのか?俺の人生に合わせて歩いてたら満足になる?

自分の人生だろ。よく考えろ。」

勇治はもっともな事を言った。

寒くなって来た日で、息が少し白くなる。それと同様に俺の心も白くなった。

「…勇治はやっぱ俺のことウザクなったんだ。」

「だからそんな事言ってないって!」

「じゃあ何で一緒にいたいって言ってるのに、俺の事遠ざけようとするんだよっ。わかんねーよ俺!」

年甲斐もなく、大声で叫んでしまった。

勇治が未来の事を考えてるのはわかったよ。でも、その未来に俺はいないんじゃないか。

俺の未来には何年経っても、勇治がいるのに…

「尚也!!」

これ以上一緒にいずらくて、自転車に飛び乗り走り出した。

後ろから俺を呼ぶ勇治の声がしたが振り向かなかった。

急速に世界が回る。

ああ、子供から大人になるってのはこんなにも苦しいのか。

涙で視界が揺れる。俺はなんとか家にたどり着いた。

「…勇治……」


俺は進路決定の用紙に地元の大学は書かなかった。

勇治と一緒の大学でもない。北海道の大学を希望した。

「勇治、俺ここには残らないから。」

「え?じゃあどこに行くの?」

「勇治には教えない。」

昨日の今日で普段通りの会話にはいかない。そっけなく答えてしまう。

そのまま3年生は自由登校の学期となり、俺は何かがない限り学校にはいかなくなった。

それは勇治も同じで…

でも、その期間、俺と勇治は何回も会って一緒に勉強をした。誘ってくれたのは勇治から。

勇治も俺も、その後の話には触れようとはしないまま卒業式を迎えた。

 

「俺、北海道の大学に行くんだ。」

「うん、知ってた…」

薄々感付いてた。勇治がソレを知ってるのを。

街の中心にある大きな時計台。式が終わってから皆で打ち上げをしていたが、俺ら二人は少し別行動をとった。

「俺、本当は尚也と一緒の大学に行きたかったよ。でも、尚也の事を考えるとどうしても行けなかった。」

「勇治、俺の事好き?」

「好きだよ。誰よりも一番に…。」

「4年後の今日、俺の事がまだ好きだったらこの場所で会おう。」

結局、お互いの進路は違う。

「いいよ。約束しよう。」

勇治は俺の手を握って、甲にキスを落とした。

「君のこれからの幸せを。」

それが、俺と勇治の最初で最後である誓いであった。

 

「尚也…!」

「勇治!」

白いマフラーをして、茶色のコート。尚也は少し息切れをして約束の場所に現れたのだ。

4年ぶりの勇治は大人っぽくなっていて、少し大きくなっていた。

「悪い。何時間待たせた?時間がわかんなくて、しかも今朝こっちに着いて…」

「いいよ。尚也が来てくれただけで嬉しい。」

勇治は恥ずかしそうに俺の手を引いて、歩き始めた。

「これからのこと、考えようか。」

嬉しそうに、そう言いながら……