街にお忍びで遊びに来た時、突然目が釘付けになった。
こんなにも、心を奪われた事があっただろうか…?
**叶わぬ夢、と知っていた**
.俺は、一人の青年に恋をした。名はブリス。正真正銘の男だ。
彼が勤める店に通いつめて、友達にまでにこぎつけた。
「ブリス!会いたかったよ!」
「俺は、会いたくなかった。」
憎まれ口を叩くものの、ブリスは頬を赤く染めてソッポ向く姿は、どうしても愛情の裏返しとしか思いようがない。
「…うそ、俺も会いたかった。」
観念をし、素直な気持ちを教えてくれた。
…ああ、今の俺の憩いの場は、ここだけだ。
国外では次々と領地獲得のための戦争が勃発し、国々が吸収されていった。
それは、我が国も同じ運命をたどる事を、予想づけている。
だから、隣国と軍事同盟を結び、国の強化を計った。その儀式は、一週間後に行われる。
「なぁ、ロッカは俺の事、好きか?」
ジッと見つめられ、そんな事を訊かれた。
「…ああ、好きだよ。君が女性だったら、結婚を申し込んでいる。」
実際、君が女性でも無理だ。
「俺も、同じ。…ロッカともっと一緒にいたいな。」
突然のアプローチに、めまいがした。俺は初めて、無断外泊をしてしまった。
ブリスの家は、心地よくて、昔の彼の思い出がたくさん、詰まっている。
どうして、もっと早くに出会わなかったのだろう…
今日もブリスに会うために街へ行こうとした。
「クロッカス様、お止めください。」
「…何だ、プラム。」
俺の前に立ちはばかるのは、側近のプラムだった。
「街へ行くのは、お止めください。明日には結婚式が控えているのですよ。」
「…何だ、気づいていたのか。」
「王様は黙認していましたが、限界です。でないと、クロッカス様の大事な人にも危害が及びます。」
ブリス…
「ごめん、プラム。今日で…最後にするから。」
プラムを押しのけて、ブリスのいる所まで走る。涙が出そうになるのを、必死に堪える。
あの時、話あったよな、ブリス。世界が平和になったら、いつか結婚しようと。
「ロッカ、どうしたの。今日、遅かったね…」
その笑顔に、涙が止まらない。
抱きしめて、抱きしめて、離れないように、強く抱きしめて…
「…ロッカ…?」
「ブリス、ごめん。」
「え?」
「もう、会えないんだ…。」
君と恋人にならなかったのは、別れる時に辛いから。
でも、お互いの心も、身体も知った今、どうしてそんな事ができようか。
「…ロッカ、どういうこと?」
みるみる内に、彼の顔に不安の色がよぎる。
「結婚、するんだ。…明日に。」
「明日結婚するのは、この国の第一王子だよ。噂では、頼りなくて、激しい人見知りだって。
ロッカとは正反対だよ。」
俺は、コンタクトをとった。王家を継ぐ者に宿る、碧色の片目。
「…うそ…」
「俺が第一王子のクロッカスなんだ。…騙してて、ごめん…」
「どうして、」
「君とは対等にいたかった!」
「どうしてロッカが、第一王子なんだよぉっっ。」
涙で顔がいっぱいになりながら、怒りを俺の胸に叩きつける。
君のためなら、どんな罰も喜んで受けよう。
「ブリス、覚えておいて。俺がいつだって、一番大事なのは、ブリス、君なんだよ。
軍事同盟の話が来た時、悩んだ。…でも、国を、君を守るためなら、自分をも犠牲にしようと、そう誓ったんだ。」
涙が止まらない。こんなにも好きなのに、どうして別れなきゃいけないんだ。
「許してくれ、だなんて言わない。」
「………」
何も答えを得れないままに、その日は来た。
盛大に行われるパレード。人々の瞳は輝いているが、俺は…
叶わぬ夢、と知っていた。
大事な人と、供に生きていく事が。
王家になんか生まれず、街の息子に生まれたかった。
そしたら、ブリスとも別れずにすんだだろうに…
ブリス、君は今、どこで何をしている…?
数年後、この国も大きな戦になり、指揮をとっていた王、クロッカスは戦死した。
王を継いだのは、まだ幼き12歳の少年…クロッカスの息子だと言う。
ブリスはクロッカスが結婚した後、生まれてくるであろう、クロッカスの子の教育係を申し出た。
「ブリス!どこに行っておった!」
「…マーガレットさま…」
あれから十年。ここにはロッカの記憶があらゆる場所に存在する、城内。
「また父上に墓参りか。」
来世は、ロッカとずっと一緒にいれますように…
それが、叶わぬ夢、だとしても…
END