君と一緒に暮らしていて、わからないわけがないだろ…
**さようなら**
一体、いつからだろうか、小さな咳を頻繁にし始めたのは。
君は隠しているようだけど、数週間もしたら気づくよ。
「ごめん、食欲がないんだ…」
昨日もそう言ったよね。日に日に痩せていく身体。
「大丈夫だよ、心配しないで。」
僕に心配をかけないように笑うけど、その笑顔は儚くて、か細い。今にも消えてしまいそう。
「じゃあ、ここに置いておくね。」
部屋の机の上に、食事を置く。部屋の中はまるで活気がなく、寂しく、ヒンヤリとしていた。
自分の部屋へ帰る足取りは重い。その理由はもうわかっている。頭の中は、ダメな方向への思考でいっぱいになっていく。
そして、その思考はついに現実となり、冬に入る頃には彼は起き上がるのさえ困難になっていった。
「…気づいていたよな。」
「…うん。」
雪が静かに降っている。静かすぎて、雪が地面に落ち行く音さえ聞こえそう。
「これ、俺が書いた日記。お前に持っててほしい。」
傍の引き出しから取り出された。使い古された日記帳。今まで、俺に触らせようともしなかったのに…
握っている手はあきらかに小さくなっていた。
「…泣かないで」
悔しくて、君を救えない自分が嫌で、涙が流れる。
医者にも診せたけど、不治の病だった。薬の治療さえできない。
君を死なせないためなら、俺はいくらでも要求された金額を払うよ。
「…俺は、嬉しかったよ。お前に逢えて…。長い時間を俺と一緒にいてくれてありがとう。俺が死んだら、自由に生きて。
俺のことなんか忘れて、自由に生きて。」
「…!そんなのできない!」
できるわけがない!何年一緒にいたと思うんだ?もう俺の隣は君以外は考えられない。
「最後のお願い。…キス、して欲しいな。」
瞳が潤む。最後のお願いだなんて縁起の悪い冗談だ。何回でも、頼まれなくっても、してあげる。
久し振りに触れた唇は、いつもと同じ感触だった。
「好きだよ、一番。好きで好きで…たまんない。」
その二日後、愛しい恋人は静かに息を引き取った。
一目を避けるように。天へ登っていく彼を見送った。最期まで美しかったなんて言ったら、怒られるだろうか。
寂しさを紛らわすために、彼の日記帳を開いてみた。そこには俺と過ごした日々を、彼の思いのまま書かれていた。
「…こんな事、あったっけ…」
日記の中で笑う彼。懐かしくて涙が出てきた。
自分の身体が病にむしばまれて行くのも、日記には書かれていた。
涙で溢れながらも読んでいくと最後のページにたどり着いた。それは、俺への手紙だった。
涙は、流れて、止まる事を知らないのだろうか…?
本当にこの世から姿を消した彼。どこを探しても見つからない。
「…さようなら。」
君を吹っ切れるまでに、当分時間がいりそうだ。
END