ハミガキ
「あずさって、ハミガキ熱心にするよね。」
夜、寝る前に歯を磨く習慣。いつも通りに洗面所で歯を磨いていると、ヒョコっと顔を出したルームメイト。
少し小柄のルームメイト・通称イインチョーはそう言った。
「何、いきなり。」
「あ、わかった!虫歯がイやなんだろぉ!アレは痛いよな。俺の通ってた歯医者さんなんか
前歯を麻酔無しで削ったんだよ。」
そりゃ痛い。ソレを思い出してか、一人で納得したみたいに頷いている。
俺はその様子を鏡越しで見ていた。
うがいをして、就寝準備を整える。机に座って、ハミガキをしたにも関わらず、コーヒーをすする。
その後ろから子供のように抱きついて来た、イインチョー。
「今日は夜、出かけないんだね!」
「なんか嬉しそうじゃない?そんなに俺と一緒に寝たいの?」
「だって一人って結構寂しいんだよ!やっぱり二人で一部屋なんだから夜は一緒がいいな。」
なかなか可愛いことを言ってくれる、このお子様は。
「そんなに頻繁に夜出かけてないだろ?俺も岬もヤりたい盛りだからって、毎晩してたら体力
が続かない…俺の。」
「―――……」
おっと、生々しすぎたかな、このテの話は。
そんなイインチョーが可笑しくて、しょうがないから話題を元に戻してあげた。
「あ、そうそう。何で俺がハミガキを熱心にするか、教えてやろうか?」
「っは!そうだった…」
ジーっと俺の顔を見る。そんなに見られても期待するような話ではないんだけど…
「だって、岬ったらすぐにキスしてくるから、食べかすがあったらイやだろ?」
ニンマリと俺は笑って、応えてやった。奥手のお子様はこういう話は聞いてるだけで恥ずかしいから
ついつい、話してやりたくなるんだよな。面白いから。
クラスの奴は興味津津で尋ねてくるが、一切話さない。だからイインチョーはラッキーだと思ってくれなきゃ。
「あ、イインチョーの思ってるようなキスとは違うよ。外国映画とかでやってる、濃厚なやつね。
舌と舌を絡めあったり、吸ったりするやつだよ。」
「も、もーいー!!」
顔はトマトみたいに真っ赤か。
自分から訊いて来たくせに、あっさりと弱音を吐いたのであった。
それと同時刻。301号室の、岬の部屋。
「なぁ、岬ってハミガキの時間、長いよな。何か理由でもあんの?」
「んんん??」
その後、この部屋の住人は弱音を吐いたか、深く追求し、猥談にいったかは…秘密である。
END