君の楽譜、僕のノート・1
暇つぶしのために買った音楽雑誌。それを読んでたら、ある記事に目がいった。
‘9月某日ひかり音楽堂にてフルオーケストラのコンサート開催。ご希望の方は…’
聴いてみたい。
僕はあまり欲に走らないけど、今回は別だ。どうしても聴きたい。
すぐに葉書を用意し、ポストへ投函。
数週間後、なんとその懸賞に当たっていたのだ!
ウィーンからはるばる日本へやって来る、オーケストラの無料チケット。
2人40組様ご招待!!
「はぁ〜なんでかな〜。」
9月、僕は一人でひかり音楽堂に向かっている。
2人一組なのに、僕は一人。
ダメ元でギイを誘ってみたけど
「ごめん、託生。その日は仕事が入ってるんだ。」
多忙な彼。2年生の時、どんなに僕を一人にしていなかったかを、改めて実感したよ。
「その日は新作の映画を見に行くんだ。葉山もどうだ?」
彰三を誘ってみたら、逆に僕が誘われてしまった。
「わりぃ、託生。その日は岩下と買い物に行くんだ。」
それなら、仕方ないよね。
「アイツと約束があってね。ったく、しつこいんだ。」
…自動的に真行寺君もだめになった。
――っと言うわけで、僕は一人で聴きに行くことにした。
折角当たったチケット。使わないともったいない。
それに、フルオーケストラの生演奏なんて、学校にいたら滅多に聴けるもんじゃないし、
これはきっと神様がくれたご褒美なのだ。
「おい!ちょっと待てよ!聞いているのか??」
少し前から聞こえてきた怒鳴り声。見ると僕とあまり変わらない年齢の青年だった。
公衆電話に、すっごく怒ってる。
「アレは、一枚9千円したんだよ?無くしたって、君はしっかり持ってるからって、信用して
渡したんだ。ジーザス(なんてこった)!」
公衆電話を叩きつけるように、受話器を置いた。
見るからに、腹を立てている。
「あ、あの…」
「…ん?」
うっとおしそうに僕を見る瞳は、硝子球に似ている。
「失礼とは承知ですけど、チケットが、ないんですか?」
「ああ、そうだよ!弟が当日にチケットを持って行くからって、信じて任せたのに。
無くしてしまって、終いには来ないと言い出した。最悪の結末だね!!」
「もし、よかったら、コレ、使ってくれませんか?」
ポケットから取り出した一枚のチケット。彼の目はソレに釘付けになる。
「コレって…」
「あ、雑誌の懸賞で当たったもんです。僕一人で聴きに行く予定だから、一枚余ったもんですけど。」
少し、厚かましすぎたかもしれない。
だって、その証拠にこの人、動こうとしなし、喋ろうともしない。
やっぱり、警戒されちゃったよね。
「でも…」
「いいんです。それに、使わないと、チケットの意味がありませんよ、ね?」
「………」
ついに黙り込んでしまった。仕方ない。謝ってそろそろ会場に入ろうとしよう。
30分前に入場しておく、コレ基本だしね。(本当かな…?)
その場を立ち去ろうとした時、彼はいきなり僕を抱きしめた。
「You are god!! I'm very happy! Oh! Well...the way it goes!!
(神よ!とても嬉しいです!世の中ってこんなもんさ!!)」
こんな感じで、僕と、桜川水穂は知りあったのだ。