君の楽譜、僕の音色U

 

先日知り合った青年は桜川水穂、20歳。

都内の音大に在籍していて、専攻はヴァイオリン。

中世的な趣で、性格は子供っぽく、博愛主義者。

肩にかかるくらいの黒髪を後ろで結んでは、ラフな服装を好む。

僕達は、同じ楽器と言うことで、多少は意気投合した。

彼は、純真で心から音楽を愛している。前に、ギイが僕に言った言葉。

『お前、音楽が身体にしみついているよ。』

少し、解った気がした。彼も、そんな感じなのだ。

「託生は最近熱心にヴァイオリンをやっているな。」

一曲、弾き終わった直後に、背後から拍手と、声がした。

「ギイ!聞いてたの?やだなぁ、声かけてくれたらよかったのに。」

「真剣な託生って、ソソるからな。」

ギイはニッコリ笑って、僕に触れた。

頬に手を置き、真顔のギイが僕へち近づいて来る。

拒まないのは、君を愛しているから。

唇が触れて、ゆっくりと離れた。離れる瞬間に、目と目がぶつかって、不覚にもドキリとなってしまった。

「…タクミは、本当に可愛いな。ここで食べちゃいたい。」

「だ、だめだよ、ギイ!いつ、どこで、誰が見ているかわからないのに…!」

「ウソでもいいから、‘食べて’っていって見ろよ。」

「…もう、ばか。」

たったの10分。10分間だけど、僕とギイはひっついたままだった。

最高な事に、人は誰一人として、来なかったしね。

今度はギイと、いつ会えるんだろう…

 

「何だ、葉山。今日も出かけるのか。」

準備満タンで、早速足を踏み出そうとしていたところに、三洲が僕に気づいた。

「うん、街まで行くんだ。」

「ふーん、一人で?」

「うん。」

「ヴァイオリン持って?」

「え、あ、うん。ちょっとね…」

これ以上追求されると、少し困るので、笑ってごまかし、街へと向かった。

理由は一つ。コンサートの日に偶然出合った、水穂さんに会うために。

「やぁ。託生、待ってたよ。」

マンションの一室。防音設備が整っていて、流石は音大御用達の物件だ。

「すいません、道に迷っちゃって…」

「道に迷った??アーハハハ!!おっかしぃーのっ。前、ココに来たじゃないか。」

前って、一週間前の事ですよ!

「まぁ。いいや。託生、今日は何を弾きたい?楽譜ならたくさんあるよ。」

ズラーっと並べられた数々の楽譜。どれも使い古されていて、努力のアトが見える。

「…じゃあ、これがいいな。」

「OK。託生らしいね。」

僕がヴァイオリンを弾くとき、彼は自然とピアノにまわる。

調律をして、いざ、音楽の世界へ…

 

「っは〜楽しかった〜。」

「託生の音色はいいね。素晴らしい。」

椅子に座り込んだ僕に、コーヒーをくれた。

「…すいません。ミルクと砂糖、くれます?ブラック飲めなくて…」

僕の申し出に最初は眼を丸くした。ブラックが飲めない男って、そんなに変かな?

「OK。託生は予想通りだね。あまりにも予想通りで少しビックリした。」

優雅な手つきで、ミルクと砂糖を僕に差し出す。

同じヴァイオリンをしてて、こんなにも手の綺麗さが違うのかと、実感してしまった。

「託生、僕はね、音楽で世界に立ちたいんだ。今は一部の人間には認められている。

けど、日本中にさえ、名は知られていない。日本なんて小さな舞台では満足できない。

世界中に名の知れたヴァイオリニストになりたい。」

彼は音楽に触れる事によって、喜びを感じるんだ。決意に溢れた瞳。

―――少し、僕と似ているかもしれない。

―音楽で世界に立ちたい―この言葉は、深く、印象深く、心に焼きついた。

クラッシックの流れる部屋の空間と一体化している彼は、とても美しく見えた。

「ああ、やはり音楽はいいね。最高だ。」

まるで、恋人に話し掛けている。

「ねえ、託生。」

「はい、」

指を組んで顎を乗せた状態で僕をまっすぐ見る。

「来週の今日、僕の誕生日なんだ。」

「ええ、そうなんですか!とりあえず、おめでとうございます。」

「ありがとう。」

「何か、欲しいものとかって…」

あんまりお金持っていないから、高価な物は買えないけど、せめて気持ちぐらいは伝えたい。

が、しかし。僕の耳にはとんでもない要求が聞こえてきた。

「じゃあ、託生が僕のために曲を作ってほしいな。」

フワリと、砂糖菓子のように笑う水穂さんにときめいてしまい、うなづく事しかできない。

ってちょっと待って。どうして水穂さんにときめいてしまうんだ??

 

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