君の楽譜、僕の音色Y

 

考えるだけに時間は充分にあった。

行きたいと思う自分と、行けないと思う自分がいる。答えはもう決まってるはずなのに、どうしてこんなに悩むの?

来年の春…ってことは僕はココを卒業している。そしたら僕も一緒に留学をしたらいいんじゃないか?

…でも。

ベッドの上で考えてると、ノックする音が聞こえた。三洲かな…?でも今夜は真行寺と約束があるって言ってたし、どうなんだろ。

のそのそとベッドから立ち上がり、扉を開く。

「ハイ。」

「託生、俺だ。」

「ギイ!」

嬉しいはずなのに、素直に喜べない自分もいる。ギイを騙してるってわかってる。ギイを裏切ってるのもわかってる。

なのに、ギイはそんな僕を心配そうに見るんだ。ギイ…

「赤池君も、どうしたの?」

「葉山、三洲は?」

「三洲君?…どっかに出かけちゃったよ。」

「ふーん。邪魔するよ。」

…どうしたんだろう、二人そろって。

「まぁ葉山はベッドにでも座れよ。僕は葉山の椅子でも借りるしさ。」

ってココは僕の部屋だぞ!言われなくても、自然とそんな風に、3人とも座るだろう。

ギイは僕の隣に座った。

「…託生」

ギイが恐る恐る僕に喋りかけた。それだけで僕の体は少しビクつく。

…何を言われるのかは大体予想はついている。でも、水穂さん事態はばれてはいない。

誰にも喋ってないし、ましてやそんな影すら出していない。ただ、知られたくなかったわけじゃなく、教える機会がなかったのが

一番の理由になるだろうか。

「託生、この頃変だぞ。何かあったのか?」

「…ギイ。」

やっぱり気づいてたよね。僕の些細な心の変化を。隠そうとはしていたけど、やはりバレテたんだ。

全てを話すべきか…。いつまでも隠し通せないのは目に見えている。もしかしたら、彼にも迷惑をかけてしまう事になるんじゃないか?

意を決して重い口を開く。

「…僕、友達ができたんだ。数週間前に。一人で音楽会を聴きに行った時に知り合った、人。彼も同じ楽器をしていて、
不思議と僕と話もあって、気も合った。それに、学校以外に友達もできて嬉しかったんだ。」

静かに、僕の話を聞く。

「…先日、彼が留学する事を聞いたんだ。『一緒に来てくれないか、託生。』って…」

今でも鮮明に蘇る、彼の真剣な眼差し、声。彼のあんな声を聞いたのは初めてで、どう反応したらいいのか、困ったな。

ギイと章三はどんな顔で僕を見ているのだろうか…。

「この前の土曜日、彼の誕生日だったんだ。そして僕は彼のために曲を作って、プレゼントをした。

…すごく喜んでくれて、すごく嬉しかった…。いつものように帰ろうとしたら、…キスを…されそうになって…」

夕焼けが映えてキレイな空だった。少し肌寒く、まだ早いかなと思いながらも僕はマフラーをしてたっけ。

「そ、それに流されそうになった…。でも、彼はギイとは違う。ギイの笑顔が脳裏によぎって…」

ギイが好きなんだ、愛してるって改めて思い知った。

「それで託生は行くのか?卒業と同時に。俺は、託生が行きたいのなら、止めない。」

「ギイ!」

「章三…俺は託生の気持ちを尊重したいんだ…」

どうしてそんなに優しいの?どうして責めないの?

ギイに誘われた時は、一度は断った僕なのに…。いっそひどく責めてよ、ギイ。

「行けない…。行けるわけがない。ギイと違う人についていくなんて、できない…!ギイを裏切ってまで行くなら死んだ方がマシだよ。」

言い終えると同時に、涙が流れた。こんなにも好きなギイをおいて行くなんて、できやしない。そんなの、僕の半身がなくなったのと同じだ。

ギイは、章三のいる前で僕の目元にキスを一つ落とした。

いつもなら飽きれてどこかに行ってしまう章三だけど、この時だけは何も言わずに僕達を見ていた。

 

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