今日から一週間、僕は一人きりである。
I MISS YOU
「いってらっしゃい。姉上、神楽ちゃん。」
「行って来ます、新ちゃん。お留守番よろしくね。」
「新八、行ってくるアルよ。お土産、待ってるよろし!」
少し大きめのボストンバッグを背負い、姉上と神楽ちゃんは商店街の福引で当てた旅行へと出かけた。
二人がいなくなった家は妙にシーンとしていて、改めて自分が一人ぼっちになったのだとわかる。
銀さんは4日前から一人で仕事出張中。
帰ってくるのは今日から10日後の予定だ。
「あー、一人かー。ノビノビするーー!」
日ごろの煩い奴らがいないといいもんだ。
一人で好きなこともできるし、メンドクサイ掃除もご飯もしなくてすむ。
ってことは、ちょっと贅沢に外食なんてのも、できるんじゃないか!?
僕は今日から10日間を、自分なりに有意義に過ごそうと思った。
「ふぅふぅ〜ん♪今日は一人だし、豪華に焼肉でもしちゃおうかな。」
スーパーへ浮きだった足で買い物に行った。
いつもは銀さんと一緒にスクーターで来るのだけど、今日は勿論、一人で。
だけど、行く途中に何か違和感を感じたけど、別に気もとめなかった。
「あ、沖田さん!」
帰り道に前方を歩いているのは、知ってる後姿。
まだ仕事着を着込んでいる沖田さんは、名前を呼ばれてゆっくりと僕の方を振り返った。
「やぁやぁ新八君ではないですかぃ。」
「お勤め、ご苦労様です。今日はお一人なんですか?」
いつも一緒にいる土方さんの姿が見当たらないので、周りをキョロキョロと探してみるけど、いそうな雰囲気はない。
「土方さんですかぃ?土方さんは今日、早番でしてねぇ。もう仕事終わって今頃のんびりしてるとこでさぁ。」
いつも何を考えてるかわからない沖田さんだけど、それがこの人のいいところなんだと僕は思う。
本当は人より深いところで生きて、人よりもたくさん何かを考えているんだと思う。
「新八君こそ、今日はお一人ですねぇ。そういや、この頃、ダンナを見ませんぜ。」
「ええ。銀さんは4日前から仕事で江戸を離れてて、姉上と神楽ちゃんは一緒に『美人湯エステ・ツルツルツアー』とう言うのに旅行に行きまして、僕は一週間お暇をいただいたんです。」
「今日の夕飯は決まったんですかぃ。」
「はい。せっかくの一人なので、焼肉をしようと思いまして。」
ガサッとスーパーで買った食材をビニール袋ごと持ち上げて見せた。
「新八君、寂しくなったらいつでも屯所に来てくだせぇ。皆、来てくれたら喜ぶしさ。
では、またお会いいたしましょう。」
沖田さんは、僕の心を見透かしたように笑みを浮かべ、夕陽の中へ消えていった。
なんだか、沖田さんの言葉がやけに胸にしみたには、気のせいだろうか…
一人でテレビを見ながら焼肉を食べても、味が残らなかった。
普段、焼肉なんてしたら銀さんも神楽ちゃんも、肉ばっか奪い合って、ゆっくりするヒマなんてない。
その上、僕なんて二人に比べたら貧弱だし、トロイから野菜ばっか。
それこそ、味を味わう時間なんてない。
今日は、一人でゆっくりと味わって食べれたのに…美味しくなかった。
…どうしてだろ。
それにテレビの音がやけに大きく聞こえて、耳障りだ。
だから、思わず切ってしまったじゃないか。
一人って…こんなんだっけな…
今日は暖かいので公園で昼食をとることにした。
花見の季節も終わり、今日も公園は子供の遊び声で溢れている。
「よ、よぉ…。」
その声が僕に向けられたものだと気づくまで、数秒の時間があった。
声をした方を見上げると、軍服に身を包んだ青年、土方さんであった。
「あれ、土方…さん。」
「どした、一人で昼メシなんて。寂しいじゃねぇか。」
ドサッと僕の横に腕を組んで座った。
いつも怖い人だけど、たまに見せる優しい姿。一体どちらが本物なんだろうかと考えるけど、結局は同じ人物。
「ええ…。家に誰もいないんで、たまにはいいかな…って。」
「総悟から聞いたぜ。皆出払ってて、おまえひとりなんだってな。」
「そうなんですね。一人って最初は気楽で嬉しいって思ってたんですけど、実際、なってみると…」
空を見上げた。
こんな事で泣きたくはない。
だから僕はまだ『こども』なのだ。
「一人、が辛いんじゃなくて、あいつがいないのが辛いんじゃねぇか。」
「え?」
「いや、いい。新八、今日の6時に屯所に来い。絶対だ。」
土方さんが何て言ったのか聞き取れなく、聞き返そうとしたら今度ははっきりと一方的な約束を僕に投げつけてきた。
そして「じゃあな。」と振り返らずに、公園をあとにしたのだ。
土方さんに言われて、恐る恐る行ってみると、なんと夕食に誘われていたのだ。
土方さんを初めとする沖田さんに山崎さん、ましては近藤さんまでもが僕を歓迎してくれた。
大勢で食べる食事は美味しくて、人のぬくもりを感じれて、僕は嬉しかったんだ。
そして今日。
今晩も夕食に誘われていたんだけど、さすがに二日連続というのは少し厚かましいかなぁ〜って思い、丁重にお断りをした。
あの時言われた沖田さんのセリフ。
「新八君、寂しくなったらいつでも屯所に来てくだせぇ。」
もしかして、気づいてた…?
自分で気づくより、先に沖田さんは気づいて、あんな事言ったんだ。
「…あと7日…」
銀さんが帰って来るまで…。
ゴロンと横になっては指折り数える日数。
いないとわかってしまう、この気持ち。口からでるのはため息ばかり。
そんな中、静かな家に突如鳴り響いた電話の音。
僕は気乗りしない気持ちで、ノソノソと受話器を取りに動いた。
「はい。志村です。」
『……』
「もしもし?返事がないようなら切りますよ。」
一間おいて聞こえてきた声に、不覚にも飛びついてしまった。
『新八か。俺だよ、俺。銀さん。』
「…銀さん…?」
今まで何で電話の一つぐらい、連絡よこさなかったんだ、バカ!!
『そうそう。ちゃんと元気にしてるかなぁっと思ってさー。でさ、新ちゃんに朗報、教えてやろうと思って。」
「…銀さん、」
『何、新ちゃん。』
「…早く、帰ってきて…寂しい……」
いつから僕はこんなにこの人い依存していたのだろうか。
たかが一週間、銀さんがいないだけで、こんなに弱虫だったか?
『…新八、そのまま玄関の戸、開けてみろよ。また連絡するからな。』
思わず口走ってしまった本音に銀さんはどう思っただろうか。
女々しい奴と思ったかもしれないな、、きっと。
だってあまり話さずに電話を切ってしまったのだから。
銀さんが帰ってくる頃には、銀さんもこの事忘れてるだろうと、願わずにはいられない…。
少ししてから、僕は玄関の戸を開けてみた。
なんと、そこにいたのは…
「新八、開けるの遅い。」
「ぎ、銀さん!!」
銀さんの顔を見た瞬間に今までのワダカマリが全て消え去ってしまった。
気づいた時には、僕は自分から銀さんをギュッって抱きしめていた。
「…ただいま、新八。」
「…お帰りなさい。」
人がこんなに恋しくなるのなんて、何年振りだろう。
銀さんに抱きしめられるのが、こんなに安心できるなんて…
それから僕は少しだけ頑張って背伸びをして、銀さんにキスをした。
END
**あとがき**
…新八ってこんなに乙女だったけか?ナゾが深まってしまった鯉です。
この作品は、「銀魂」のページからも「お題」のページからも行けるようになっております。