魔法をかけた魔法使い
季節は冬で、今すぐにでも雪が降ってきそうな夜。
長谷川朋は一人で夜道を歩いていた。
『あたし、あんまり朋の事好きじゃないみたい。』
頭に響く彼女、いや、元彼女の声。
今しがた、朋は振られたばかりである。
身体がキーーンと冷えるなか、心も同じように冷え切っていた。
涙さえ出ない始末。
鼻をすすりながら街灯を通り過ぎた頃に、ようやく後からヒタヒタと付いてくる妖しげな音に気づいたのだ。
(…ストーカー?)
このまま真っ直ぐに家に帰るのは避け、近くの公園にでも誘い込んで素顔を明かしてみよう。
そう思ったのも、もしかしたらムシャクシャしていたからかもしれない。
それにこう見えたって、武道はやっていたから力には自信がある。
相手が特別な‘何か’を持っていない限りは何とかなるだろう。
日中は子連れの親や学校帰りの子供で賑やかな公園も、深夜も近くなると静けさに拍車をかけていた。
朋は、早歩きをして本当に相手は自分につけて来るのか試してみたら、本当に着いて来たのだった。
少しばかり不安を抱えながらも、憂さばらしをするのにはいいかもしれない、と思う。
大きく深呼吸をし、勇気を出して後を振り返った。
なるべく怖い形相で拍をつけてみた。
いつでも相手が襲い掛かってきても大丈夫なように、ポケットから拳を出す。
なのに…睨みつけた先には、女の子が立って居たのだ。
「…え……?」
水色のニット帽を被り、長い髪が二つ出ていた。
クリーム色の暖かそうなコートと、洋風な容貌が夜に似合っている。
女の子も女の子で睨まれて、可愛くて大きな瞳が少しおびえていた。
「…君、ずっと付けて来てた…よね?」
朋は拍子抜けてしまい、身体の緊張が糸を抜くように消えていくのがわかった。
「…すいません。」
「何でずっとついてきたの。」
別に怒るわけではない。
理由が知りたいのだ。
年齢も10ほど違う。
こんなに美少女がこんな俺に何か用があるのだろうか。
「…お兄さん、泣いてるから。」
少女のおびえた表情は消え、次の言葉を発した時にはフワリと笑っていた。
「泣いて」
なんかない。
そう否定をしようとした刹那、少女は朋に小さな両手を差し出した。
「?」
ワケが解らないまま、両手と少女の顔を交互に見ていると
「握って…」
と言われ、素直にその手を握ってしまった。
握った手は思ったよりも小さく、ついつい元彼女と比べてしまう。
雪の降りそうな真冬であり、指先が冷たい。
「今から、元気になる魔法をお見せします。」
少女はニッコリと笑い、握る手に力を入れ始めた。
「お兄さん、上を見て。」
朋は言われるまま上を見た。
…すると…
闇夜の天から舞い散る、ピンクの花びら。
「…これは…」
その光景が、あまりにも不思議で呆気にとられるばかりである。
次から次へとピンクの花びらは落ちてきては、いつしか落ちて来なくなった。
滅多に見られない現象に開いた口がふさがらない状態である。
「お兄さん、元気出た?」
「え…?」
「お兄さん、泣いてたから元気づけようと思って。」
まだ幼い笑顔の少女に魔法をかけられ、朋は悲しかった感情がなくなっていたのだ。
「…うん、元気出たよ。ありがとう。」
久し振りだ、こんなに優しい気持ちになれたのは。
「じゃぁね、お兄さん。」
少女は後ろを振り返り、走り出そうとしたのを、朋は咄嗟に呼び止めてしまう。
「あ、お礼にお茶でも…!」
「ううん。人が待ってるし、もう夜も遅いから。そうだ、時間があったらコレ、見に来て。
知り合いの人が行く予定だったんだけど、行けなくなっちゃったみたいで。」
ポケットから取り出されたのは、今を羽ばたく日本で有名なマジシャンの公演チケットであった。
直で買えば数万円はすると言う、だけどそれだけ出しても見に行きたいマジック。
チケット買いは争奪で、滅多に買えない代物なのである。
「…これ…」
「じゃ、お兄さん、バイバイ!」
最後の最後まで、あの不思議な少女のペースのままだったな…と朋はチケットを眺めていたのだ。
誘われるまま、そのチケットを持ち、公演を見に行った。
会場は大変は人の海で、全席指定席。
少し人ゴミのせいでクラクラしながらも朋は何とか席までたどり着けた。
期待半分不思議さ半分で始まるのを待ち、数十分後に舞台は幕を開けた。
テレビで見るままのマジシャンが人を惹き付けるイリュージョンを見せつける最中、朋はある事に気づいたのだ。
舞台の助手として出ている男の子。
昨日の少女と同じ顔をしているのだ。
朋は舞台そっちのけで、買わされたパンフレットを開いてみた。
【橋場昌秋】
年齢15歳
「…何だ、女の子じゃなくて男の子だったのか。」
公演が終わるのを待ち、朋は昌秋が出てくるのを数時間待った。
関係者出入り口から小さな頭が出てきたのが見えた。
「…おい!」
朋の声に彼は反応し、足を止めた。
「…お兄さん…」
「お前、マジシャンの見習い、しかも男だったんだな。」
「…すいません黙ってて…」
「よかったら、この間のお礼も兼ねて、俺とお茶しない?」
8つも年の離れた子供を誘うのに、照れる大人がどこにいようか。
「…はいっ!」
少年は、朋の腕に腕を絡ませたのだった。
END
**あとがき**
設定がめちゃくちゃですいません。ココでフォローいたします。
・昌秋は本格的にプロを目指すので高校には行っていない。
・この日の公演は、昌秋は一回きりの出番で早くに帰ってもよかった。
・その後二人はいい関係になります。
以上…かな?
なんとかホノボノにしてみたかったけど…しきれなかった(泣)
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