日下くんの一日B
僕はあのアト、あと始末をしてから楓さんを寮室まで運んだ。まさか、失神するなんて思わなくて、僕としたことが焦ってしまった。
イったあとの楓さんの表情は艶っぽくて、気持ちよさそうだった。頬が軽く蒸気していてそれだけでもう充分に魅力的。
「…お前、複雑そうな顔してるな。嬉しさと後悔を混ぜ合わせたような。」
「結城先輩、基喜も。はぁ…そうなんです。今の僕の心境は何億万分の確率で、深海に眠る財宝を得た幸福者と牢獄の中の囚人…」
一杯80円のホットコーヒーを談話室に座り飲んでいると、結城先輩が僕の隣に座った。
基喜は自販機で二人分の飲み物を買って、一つを結城先輩に渡し、もう一つは自分用とし、またしても僕の隣に座った。
「なんじゃそりゃ。その極端な例えは。」
「極端でかまいません!もう、罪を犯したけれど、その罪が…う、嬉しいんです…」
ついに楓さんを食べてしまった。いや、ちゃんと食べてはいないのだけれど、食べてしまった。楓さんとの行為が脳裏によぎる。
「お二人はどうしてここに?」
「楓を夕飯に誘いに行ったら眠ってってな。廊下を歩いていたら高沢と会ったんだ。」
…やはり、まだ起きれませんよね。あんなに感じちゃって、疲れたでしょう。
「でな、首筋の処がなんか赤く虫に刺されてたんだ。やらしい場所を刺すよな、虫も。あんなの一見間違えればキスマーク!」
あははーっと結城先輩と基喜は笑っていますけど、僕としたら笑えませんよ。正真正銘のキスマーク。
僕がつけた。
「んじゃ、楓には帰りに食堂のおばちゃんにオニギリを作ってもらうとして、俺らだけでも夕飯と行きますか。
ほら、進め。一年坊主ども!」
ケラケラと笑いながら結城先輩は僕達の背中を押した。こんなに気さくな人だから楓さんは心を許しているのだろうか。
「…美味しかったんだろうなぁきっと。」
意味深な台詞を、僕にだけ聞こえるように言い、ニヤっと笑ったのは勿論、結城先輩。
この人は、あなどれないっと、改めて実感しました…
六月に入ってほとんどが雨。たまにお天道様が顔を見せるが、それ以外はもう曇り空。
梅雨の時期でもあり、湿気のせいで折角の半袖でも暑い。違う汗で制服は湿り出した。
「…楓さんは雨も似合う…」
「はぁ?智季、何バカなこと言ってるんだよ。」
今日は基喜も結城先輩も委員会があるから、楓さんと二人っきりの昼食。滅多にない、二人きりの昼食に、ドキドキしてしまう。
あの日から2週間ほど、楓さんは目も合わせてくれず、声をかける事できず、避けられるだけの日々を僕に与えた。
だから、教室まで乗り込んで土下座までし、誠心誠意で謝りたおしたのだ。
「雨に咲く花は紫陽花。楓さんは雨の日にも咲く花のように水々しく、可憐だ。」
それを自覚していないのが少々問題ですが。
「お前はそんっなに僕に嫌われたいのか?いいよ。嫌ってあげる。智季なんて好きじゃない、嫌いだよー!」
そうやって子供らしく拗ねる仕草、表情さえ僕を煽る。
ここが食堂でなければ、公共の場でなければ、その場で唇を奪ってしまいたい。
「楓さんが僕を嫌いだと仰っても、僕は好きですよ。好きで好きでたまりません。一緒に居てくれるだけで、幸せです。」
頬を紅潮させ、僕を見つめる。
あどけない感情を持て余してるのは僕とあなた、どちらでしょうね。
「…っあ、それより、夏休み、よかったら泊まりに来ないか?母さんがゴールデンウィークの御礼にどうぞって。
嫌だったら正直に言って。断るから…」
そんなに気弱な声にならなくても。僕が断るとでもお思いですか?
舞い上がりすぎて言葉にできない。愛しい人が育った家に行くなんて…ああ、アルバムとか見せてもらえるだろうか。
今の僕には‘体が宙に浮いてる’という言葉がしっくりくる。
「…智季んちとは比べ物にならないほど小さい家だからな。」
そんな事、どうでもいいですよ。大きさなんて関係ありません。こんなにも夏休みが待ち遠しいと思ったのは、小学生以来かもしれない。
僕はもう、あなたを手放せないと、思い知らされた気がした。その誓いとし、楓さんの手の甲にキスを落とした。
「わ、ばか!お前って本当に嫌われたいんだな!」
バチン、っと軽くビンタをお見舞いされたけど、それほどには痛くなかった。
「もう!智季は!あ、予鈴が鳴る。じゃあ、教室に戻るね。智季もちゃんと授業に出るんだよ?
サボったりなんかしたら、夏休みの件は無かったことにしよう。」
楓さんは、ちゃんと僕に笑顔と言葉の釘を差したのだった…
さぁて、早く夏休みにならないかな?
END
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**裏話**
題名、間違ってしまいました(汗)まぁいっか。ちゃんとした「日下君の一日」は後日UPとして。
書く予定ですが、ゴールデンウィークに楓は智季の実家に遊びに行きました。
ただそれだけです。夏休みのお話はもう出来上がっております。いつUPかは解んないけど…