「岬、お正月にどこ行くの?」
岬が玄関で靴紐を結んでると、姉の灯子が声をかけてきた。
「うん。恋人のとこまでちょっと。明後日には帰ってくるよ。」
「そう、気をつけね。」
恋人の事をアレヤコレヤと訊いてくるんじゃないかとヒヤヒヤしていたけど、何も訊かれなくて少し安心した。
「じゃ、行ってきます。」
岬は白い息を吐きながら、寒い道を急いだ。
「兄ちゃん、何してんの。」
「ん、何もない。」
あずさは自室からずっと、窓の外を眺めていた。
久しぶりに帰省した兄・あずさに弟のかつらは構って欲しくて仕方が無い。
別に用事がなくとも、こうしてあずさにベッタリとくっついている。
「変な兄ちゃん。」
あずさはそれでも、しきりに窓の外を気にしていた。
夕間暮れに近づいた頃、都津川家のベルが鳴った。
家族は皆眠りはて、ウトウトとしていた自分が律儀にも出てしまう。
「はぁい。」
「明けましておめでとう、あずさ。」
「…みさき…」
「あずさがこんなに可愛いの、くれたから来ちゃったよ。」
岬はポケットから葉書を取り出した。
その葉書はずっと持っていたのだろう、そして何度も見たのであろうか、シワシワになっていた。
「…それ、」
「そ、年賀状。あずさからの。」
『年賀状よりも、岬に会いたい。会いに来てよ。』
たったそれだけの文字。他は何も書かれていない。
「やっぱ、…めいわ…」
最後まで言えなかった。突然、あずさが飛びついてきたから。
「…ありがと…岬……」
「…うん。」
やっぱり、恋人と一緒にいられるのが、何よりも幸せ。
正月は何かと人肌が恋しくなるもんだ…と、あすざは決め付けた。
††その後††
「で、今日帰っちゃうの?」
「ううん。ビジネスホテルに、空きがあったから今日はソコに泊まって、明日か明後日に帰る。」
ベッドの上であずさを膝の上に乗せてる岬は、ズズ…と鼻をすすった。
「やっぱ寒い中来てくれたから、風邪引いたんだ。」
「大丈夫だって、これぐらい。」
あずさは岬の胸に顔をうずめて、甘えると岬も甘えさせてくれる。
「ねぇ、岬、俺も一緒に…」
「ちょっと待って。電話来た。」
あずさを膝から下ろし、電話に出ると、姉の灯子から。
その電話にあずさは少し嫉妬してしまう。
「…あずさ、ごめん。で、何?」
「あ、うん。俺も、一緒にホテル泊まろうかな…って。」
「本当!?俺は嬉しいけど、親御さんとかには…」
「いいの。岬がこうして会いに来てくれたんだし、俺も一緒にいたいしね。」
言うとすぐに、あずさは小さな鞄に着替え、財布、携帯電話だけをつめて岬の手を握った。
「お母さんには後で電話するから平気。さ、行こ!」
岬は答えるかわりに、あずさの瞳を見て笑った。
おわり