次の日。
遅刻ギリギリで教室に駆け込んできたのはまぎれもなく、川澄岬。頭はボサボサ。目の下にはクマ。
利き手の左手は真っ黒。おそらく、鉛筆のアレだ。
「や〜、あ、ずさ。頑張りました。」
席に着くなり注目の岬にはクラスの皆は興味津津。
「はい。どおうぞ。」
差し出されて受け取った大学ノート。全ページにはみっちりと俺への愛が綴ってあった。
「川澄、それなんだ?」
「んんん〜。あずさへの、愛を、一夜で書き尽くしました。」
「うっそ!!何でそんな事したんだ?っつーか、都津川への愛って、何??」
「んん。寝る。」
最後の糸が切れたらしく、机へと倒れこんだ。
ほんっと、よくやるよ。後で全て読ませてもらおう。
「おいおい、都津川!何か意味深だよなぁ。説明しろよ。」
野次馬共が煩い。
「友坂、どうしよう。」
「さあな。お前とあいつの問題だ。好きにしたら。」
う〜ん。どうせいつかはばれると思うし、早いか遅いかの問題だな。
「別に。岬が俺とキスやそれ以上をしたいと言うほど好きだって言うから、試してみたんだ。」
「え〜!じゃあ、させんのか!?」
「まさか。ほっぺにキスだけはしてやる。」
それ以上なんて、男同士でどうしろというんだよ。
俺の疑問とは裏腹に夢の世界に旅立ってしまった岬は、とても幸せそうである。
皆の好奇心が絶頂に達しようとしたとき、俺にはタイミングよく授業開始のベルが響き渡った。
「ちぇ〜もう授業だぜ。」
文句を言いながら席に着く野次馬共。あ〜さっきのでドッと疲れた気がする。
でも、一体どんな風に綴ってあるのかが気になるので、一時間目はこれを読む時間にしよう。
国語教科担当の渋ちゃん、ごめん!!
「んん〜もう昼?」
ネコのように背伸びをし、目を擦る。
「そう。さっきなったばかり。」
暖かい日差しの中、もう一度眠ろうとした岬を俺は強引に中庭の噴水まで引っ張る。もちろん、昼ごはん持参で。
太陽に光で木々の葉が反射し、目には眩しい。
俺はポツンと置いてあるアンティーク風味のベンチに岬を座らせた。
「え?何?」
「ここでお昼を食べるの。午後の授業は寝るんじゃないぞ。」
岬の横に腰を下ろし、売店で購入したパンを口に入れる。よっぽどお腹が空いていたのだろうか、岬は一言も喋らないで食べている。
…さて、問題は俺である。岬に約束の品を渡す…。ちゃんとこいつは俺の要求をのんだし、俺も男だ。
約束はきちんと守る。
「岬、」
「何。」
しようと決心し、顔を見る。でも、こいつったら、俺を見ようとしない。…なんか、腹立つ。
岬の頬にパンのカスがついているのを発見した。岬の首に手を絡めて、身を乗り出し、顔を近づけて、舌でソレを舐め取る。
そうそう、少し卑猥な音もたてなくちゃな。
「…!!」
面くらったのか、岬は固まってしまったようだ。
「約束のキス。確かにしたからな。」
まだお互いの吐息が触れ合える距離。眼を見るのは照れくさいから、うつむいていた。
「あ、あずさ。」
呼ばれるのと同時に目の前は岬の顔!俺は一体ナニをされているんだ?
ナニはすぐにわかった。そう、唇を奪われていた。
「ん、…あ…」
息継ぎの余裕さえくれない、強引なキスである。え?口の中に何か入ってきた…。
「これ。」
天の助けと言うのはこういうのを言うんだろうか。俺たちの頭上から声がした。
「わ、ば、馬鹿!岬のアホ!」
俺は少々涙目になり、岬にパンチをくらわせる。もちろん、グーで。
「お前らがサカるには、まだ早すぎる。」
声の主は高校弓道部の先輩、息吹湊。高校弓道部副部長を努める息吹先輩は身長が190cmはあろうかどうかの、大きい先輩。
でも、性格はさっぱりとしていて、有限実行、先生からの人望が厚い先輩だと、噂で聞いている。
「息吹先輩!だって、恋する人が誘うように頬にキスをくれたんですよ。我慢しろって言う方がムリです。」
「自分を正当化するな!」
「んまぁ、確かに俺もされたらその場で押し倒しちゃうかも…な。」
一体、誰で想像したのか、顔が緩んでる。
「それにしても、都津川、大丈夫か?目が潤んでる。」
190cmの巨体は軽々と俺を持ち上げた。
「わわわ…!」
「お前って、まだちっせーなー。何センチだ?}
「あ、えっと、156です。」
「はは、かわいーなーv」
赤ちゃんを抱くように抱き、頬擦りをしてくる。
「先輩、止めてください!」
正直、コレには困った。だって、後ろでは岬が見てるんだもん。岬、助けて…。
「息吹先輩、やめてください。あずさは俺のです!おいで、あずさ。」
優しく手を差し伸べる岬に俺は魔法をかけられたように抱きついた。
「はいはい、ごちそうさま。じゃ、俺はあっちに清志待たせてるから。じゃあな。」
「あ、先輩。」
「ん?」
「今日の部活、俺と都津川は休みます。理由は、体調不良です。」
これのどこが体調不良なのか。先輩は文句を言うにもなしでクスッと笑った。
「りょーかい。」
先輩はこっちを振り向かずに清志先輩が待つ場所へと進んで行った。
取り残された俺と岬。俺はまだ岬の腕の中。ここって、安心する。人間の体温ってこんなにも心地いいんだ。
「あの、岬…ありがとう。助けてくれて。」
「とーぜん。あんな事をしていいのは俺だけ。」
自慢気に俺にそんな事をいう岬が妙に可愛い。
「だからといって口にキスは許さないからな!」
「そんな顔をしても可愛いだけ。」
男が可愛いと言われて喜べるか。
「もう知らない。あ、そろそろ昼休み終わる。戻ろ。」
初めての中間試験が始まろうとしている春の陽気。薫風が吹く日差しの中、教室まで一緒に帰った日であった。
さて、今度はナニを要求してみようかな…?
終わり