雨の街U

 

 

それと同様に、彩にも触ることすらできない。

「僕達の世界の波長と、蛍の波長がちょうど重なったんだね。きっと…あの桜の木の下で。」

数メートル先にある、見慣れた風景。

「どうしてキミたちに触れないんだ。僕は夢を見ているのか?」

目の前にある実体に触れないなんて、物理的に可能なのか?

「―深く考えないで。蛍は人間で、僕達は人間じゃない。蛍は今、自分の空間とは違う場所にいるんだ。だから、僕らには触れる事ができない。」

「じゃあ何でキミ達は僕に触れる事ができるんだよ。それに、人間じゃないって姿形はそうじゃないか。」

頭が混乱してきた。

「そんなん、簡単だ。俺と彩は‘特別’。人間に触るなんて、朝飯前。それに今は梅雨の季節。俺らの季節だから、温存

していた力が充分に発揮できている。ただそれだけのこと。」

人間は稀ににしか不思議な力を持っているが、彼らがそうなんだろうか。照の言っている事がよくわからない。

本当に人間とは違う、別の生き物なのか。

「ああ、雨が止んできた。」

「そうだね。」

二人はあの桜の木の傍までゆっくりと、静かに同じ歩調で歩いていった。

僕の疑問はまだ解決していない。一人取り残された僕は気分が悪かった。

「蛍、早くこっちに来い。」

渋々足を運ぶ。地面の砂は泥に変化しており、はまらないように水溜りを避けて通る。

「何だよ。」

きっと僕はムスッとしている顔だろう。時刻は五時十分前を指していた。

そろそろ兄さんが帰ってくる頃。

「早く帰りな。」

照は変わらない口調で言う。顔は表情を見せていない。

彩は照とは対照的に、か悲しそうに瞳を潤していた。

「また、会えなくなっちゃうの?」

「人間はこっちの世界に来ちゃだめなんだよ。彩も、悲しいな。掟だから仕方ないんだよ。」

「うん…。」

また意味のわからない事を。

「それじゃ、僕はこれで…」

わざわざここまで来てやったのには、意味があったのだろうか。

「だめっ。そっちじゃない!」

また同じように彩に腕を掴まれ、照と彩の前に立たされた。

「照、早く。」

「わかってる…。蛍、雨がそろそろ止む。その前にお帰り。じゃないと、もう帰れなくなる。」

トンっと軽く俺の胸を押した。なのに、体は勢い良く突き飛ばされたかに反動し、よろめいてしまった。

その時、何とも言えない感覚が身にまとったのは、気のせいだろうか。

「何するんだ…よ…」

照の言う通り、雨はすでに止んでいた。ほんの数分間の間に。

そして、二人の姿も消えていて、今さっきまでココに存たという足跡さえ地面についていなかった。

「何だったんだ…彼らは。」

腑に落ちない気持ちでいっぱいにになりながらも、やっとの事で家に帰れる。

そこには、僕の前を歩く見慣れた後姿。

「兄さんっ。」

「蛍。」

「一緒に家まで、帰ろ。」

家に着くまで、兄さんの学校での出来事を聞いた。兄さんはよく自分の話をしてくれて、僕の事もちゃんと聞いてくれる。

家族の中で一番に好きなんだ。

「あ、そういや俺、中一の今頃、不思議な少年に逢ったよ。青いレインコートと、白いレインコートを着た二人の少年。

えらく綺麗な少年たちだったって事しか覚えていないなぁ。で、いつの間にか俺の目の前から消えちゃって、ソレっきり。

変な話だよねぇ。」

また会えなくなっちゃうの。’

彩の声が新鮮に蘇る。僕も今しがた、同じ体験をしたよ、兄さん。

 

それから月日は経ち、今は19歳になった。あれ以来、彼らに会うことはなかった。

兄さんと帰った帰り道には紫陽花とどうかしている雨の残りが太陽に反射し、眩しかった。

近所の家には子供が作ったテルテル坊主が可愛らしく、笑っていた。

 

                                             終わり。

                                                          小説のTOPへ

 

***裏話***

この話は鯉が高2の時に書いたものを一部加筆、手直ししてココにUPしました。

無謀にも国が主催する「高校生小説部門」に投稿し、見事落選したものです。

作品が少ないこともあり、ココに載せました。思い出深い作品なのは、確かです^^: