まだ、夏の途中

 

「あーつーいー。」

当たり前だ。今は夏なのだから。ああ、空が割れるように青い。

「あずさー、俺、こんなに暑かったら溶けるぅ〜。溶けたらもうあずさを抱けない…くすん。」

「うるさい。ひっつくな。暑いのが余計暑くなる。ほら、部室に戻って服着替えて来い。」

俺は今、お絞りを作ってる最中なんだ。そして今、俺を上から覆い被さり、ピッタリと身体をくっ付けているのは

弓道部部長の川澄岬。高後学園の3年生だ。

ついでに俺の親友であり、恋人でもある。恋人になったのは、高校からだけど、付き合いは中学1年から。

席が隣になって、俺が『弓道ってかっこいいよなー。』って言った一言で、入部。

…すると俺まで何故か入部していたんだ。

「だって、部室、めっちゃ暑いんだよ?外の方がまし!」

それもそのはず。外は炎天下で雲一つない。けど、風は少し吹いている。それに比べて部室は15畳に34人

という部員がスシ詰状態で着替えている。おまけにクーラーなし。

「みんなが着替えてから〜。」

「そんなんでよく部長がつとまるね、この甘えん坊さん。」

「それを言うならあずさの方だって…。エッチした後、上手に甘えるんだぜ。‘もっと…’って。」

「なっ、ばか!そんな話するな!」

俺の耳元で!掠れた声で!なんて不謹慎な奴。一体俺がいつ、甘えたっていうんだよ!

なんて考えていたら、いつの間にか岬は自分の手も水に浸け、その手を俺の背中に…

「ひゃぁぁうぅっ。」

いきなり冷たい水が背中を通り抜けた。これで驚くな、という方が無理な話。

「何すんだよ!馬鹿岬!!」

うー、まだ心臓がバクバク言ってる。よく考えれば俺って、こいつに驚かされてばかりじゃないか?

「何って…あずさが全然かまってくれないから…」

俺の耳元でくすぐる様に喋るなんて反則だぞ。そうじゃなくても、お前が引っ付いているってだけで…

「なぁ、俺部活休むから、帰って、しよ?」

「はぁ?何をだよ。」

ふー、やっとあと三つでお絞りが全て作り終わる。これを冷蔵庫に入れて、コップを洗って…と。

こんな時、マネージャーが一人だけって不便だよなぁ。誰でもいいから入ってくれ、と願うのは当然だと。

「だから…」

小声で囁いたのは、まぎれもないアレで。

最後のお絞りを絞り終わって、岬を振りほどき、一言。

「インターハイが終わるまでエッチ禁止!俺は先に行くよ。早く着替えて道場に来いよ。バイバイ!!」

大量のお絞りをお盆に乗せ、俺は怒りながら歩く。

ったく、なんて奴。こんな真昼間からしよう、だなんて。ふぜけんのもいい加減にしろ!

今は部活中だ!

 

弓道場に一歩足を踏み入れると緊迫した空気が俺を包む。大会前はいつもそうだ。

そんな中、ひときわ緊迫した空気を持ってる人がいる。

―――真剣な表情は誰も引き寄せないという表示の様で、後輩はおろか、同級生でさえ、声をかけづらい。

でも、俺はそのテリトリーに無条件で入る事ができるんだ。

岬は丁度、ブザーを鳴らして的に射った矢を取りにいってるところ。

汗を拭う仕草でさえ、格好良く見えてしまう俺ってば重症??

矢を抜いてから再び定位置に戻る。そして射法八方を物の見事にやってのける。

同造り、弓構え、取懸け、打越し。高さは約45度。矢はほぼ水平。鋭い眼差しは他には何も見えなくて…。

弓手で素手をリードしながら引き分け、そして会。

手を放つと矢は風を切り的に命中。

しかもど真ん中。

岬って本当に国体レベルだよなぁ。企業からよくスカウト来るし…。それに比べて俺は…。

「あずさっ!」

じっと自分を見る俺に気づき、嬉しそうに駆け寄って来る。ほんっと、大型犬。しかもワンパク盛りの万年発情期。

「何?どったの?もう休憩?」

「ううん。岬って真剣な顔をかっこ良いなーって思って。」

あ、俺汗臭いから近寄らない方がいいよ、って俺から一歩遠ざかる。

「お前って変なとこでデリケートだよな。人前では変な事言ったりやったりするのに。」

頬は起伏して赤身を増している。

「ホラ、部長がサボってたら示しがつかないだろ。俺は休憩の準備をするんだから、ちゃんとするんだよ。」

「はーーい。」

少し名残惜しそうに岬は返事をする。でも、俺だってつらいんだよ。

「あ、そうだ。岬、」

「ん?」

「インターハイ、優勝できなかったらエッチはなしにしようか。」

「え…」

フフ。顔が固まった。

「じゃあね。俺としたかったら、全力で頑張りな。」

なんてね。そんなの冗談に決まってるだろ。そんなことしたら、俺の身体が持たない。

でも、一人本気にした人がいるけど、それはそれで良い薬だな。

 

 

 

明日は大会の日。大会は主に京都で開催されるから、京都のホテルに泊まっている。

俺は前日にはあまり練習させない様に、部員達に言ってあるんだ。

前日ぐらい、リラックスしてほしくて。

なのに、岬は練習用の野外体育館で、未だ練習をしている。

「もうやめろ。マネージャー命令だ。」

天には星達が輝き、俺らを見下ろしている。

「やだ。だって優勝できなかったらあずさとエッチできなくなる。」

「他の子とすればいいじゃん。岬なら選り取りみどりだろ?俺は嫌だけど。」

「俺だって、あずさとしかしたくない。」

そんな真顔で言うなよ。俺は何だか罪悪感とやらが生まれてきて、本当に岬に悪い気がして来た。

「あのさ、」

「ん?優勝の事?俺頑張ってもぎ取るよ。」

視線を俺の方にむけ、ニッコリと笑う。

「エッチのために?」

「ソレもあるけど、俺はあずさに喜んで欲しいんだ。高校最後のインターハイ。

あずさのために、全力を尽くすよ。」

ああ、俺やっぱり岬には敵わないよな…

「別に優勝しなくても、インハイが終わったらしても良いよ。…じゃないと、俺一人じゃ満足できないし…」

恥ずかしいっっ。岬とだったら満足できるって言ってるのと同じだよ。

岬は俺の事を愛しそうに見つめ、いきなり、本当にいきなり抱きついてきた。

深く、きつく、俺の存在自体を受けとめるかのように。

「いたい…離して…」

「――なんでこんなに愛しちゃってるんだろう。あずさって俺を惑わす唯一の存在なんだよ?」

「あ…岬、あたってる…」

岬だけじゃない。俺のだって同じように変化している。

「だって2週間もしていないし、生のあずさに触ってるし…。う〜ん、やっぱり夢より本物だよなぁ〜。」

「わ、ばか。くすぐったいって。」

岬は俺の顔にキスの雨を降らす。…口は除いて。

「な、なぁ。口にもしていーい?」

遠慮がちに訊く。だから、俺から少し背伸びをして岬の唇を塞いでやった。

それに応えるように、何度も、いっぱい帰すをしてくれた。

…エッチは禁止って言ったけど、キスは言ってないもね。

 

大会は静かに幕を開けた。

全国各地の選りすぐれた高校が参加しているだけに熱気づいている。

「みんなーよく聞けよ。団体戦の初戦は草中高。必ず勝て。

藤原学園は最後まで残るだろうから、去年の雪辱戦に持っていけ。

個人戦は、自分以外が敵だ。うちの高校ともあたると思うから、お互い全力で。以上!!」

個人戦は学年に関係なく出場できる。今年もきっと藤原と一騎打ちだろうな。

去年は個人は高後、団体は藤原といった勝敗だった。久し振りに個人も団体も優勝を飾りたい。

『ただ今より、個人戦のトーナメントを行います。出場する選手は…』

アナウンスが入った。A〜Dの4つのブロックに分かれているので、皆バラバラ。

「岬は?」

「Cブロック。高崎はA。」

高崎とは藤原学園の弓道部部長で岬のライバル。いっつも最終戦は高崎と対戦になる。

頬にチュッと音だけのキスを落とす。こーゆー公共の場でできるなんて、変な奴!

「頑張って来いよ!俺と、岬のために!!」

おう!と返事をして初戦へとゆっくり足を歩ます。

これが終わったら岬とどこへ行こう?やっぱり受験勉強かな、なんて考えながら岬をずっと見ていた。