夕暮れ時の体温
5月のゴールデンウィークに智季の実家に遊びに行った。
…いや、連行されたのまちがいだ。
だって学校から直で行ったし、僕の有無さえ問わずに、勝手に新幹線の指定席の切符を予約していて…。
怒ってる間に着いた先は、京都。
タクシーで向かったのは勿論、智季の実家だ。
実家は京都で呉服店なんてやってるから、デカイことはあらかじめ予想をしていたけど、予想は裏切られ、とてつもなく大きかった。
店の方は、築数百年らしく、広大な敷地にドーーン!!と建てられている。
家は店から少し歩いて行ける距離ある。家も大きくて、あえて言うなら平安時代の宮殿の現代版…。
店も家もでかいったら、ありゃしない。
お姉さんと妹がいて、二人とも智季と似た和風美人。そう、大和撫子なのだ。
椿さん(姉)は20歳で、華道、茶道の師範をしており、趣味は琴に習字。現在は地元の大学に通いながら着物のモデルをしているらしい。
蓮ちゃん(妹)は13歳で、とても可愛い。椿さんを教えた家元で、琴と茶道を習っている。
お母さんは、着付けの先生と、スタイリストをしているらしく、現在は日本を離れているとのこと。
お父さんは言うまでもなく…呉服店の17代目当主。ついでに地主さん。
もう、なんていうか、一般庶民の僕とは生きてる世界が違うって言うか、身分違いって言うか…
それも問題なんだけど、今の問題は、そんな智季が僕の家の居間に座ってお茶を啜ってるなんて…!!
「じゃあ、智季さんは何か習い事してはったんか?」
母が冷蔵庫から、買ってきたばかりの高級ケーキを皿に乗せながら、楽しそうに笑っている。
…もしかしたら、息子が帰省したよりも嬉しいんじゃないか?と思わせるぐらいに。
「はい。椿姉さんがしていたモノにプラスして。チェロをさせてもらいました。あと、算盤と日舞踊は、姉さんも蓮もできます。」
だから、オケ部にいるんだろ!?
智季は16歳とは思えない物腰で、優雅に微笑み、僕の母親はウットリとため息をついた。
「じゃあさ、智季さんって名古屋は初めて?」
2歳年下の弟、椛(もみじ)は智季の隣を陣取り、興味津津で話しに加わる。
「従兄弟がこっちの方に住んでいますので、初めてではないですね。」
ニコ…と微笑むと椛は智季の事を御気に召したのか、負けじと笑い返した。
椛は僕と違って、可愛くて、性格もひねくれてなく、何をやっても許されるタイプだ。
初対面の人とでもすぐにフレンドリーになれる椛。そう、僕とはまるきし正反対である。
昔から、何をするのにも比べられてきた記憶が今でも頭を遮る時があるのは、内緒の話。
だんだんとお互いの壁が取り払われていくのが、僕の目からでもわかる。
そんなの、見たくない。
「僕、部屋に戻る。智季、行くよ。」
「はい!楓さん!」
一瞬、椛がイやそうな顔をしたのを、僕は見逃さなかった。
「楓にぃ、智季さんは俺と話してるんだから、戻るなら一人で行けよ。」
「いいんですよ、椛さん。僕は楓さんと一緒にいたいだけですから。」
そ、そんな事、こんな場所で言うなよ!
…よかった。お母さんが聞き逃してそうな顔をしていて。
それとも、聞いてないフリをしているだけ?
「でも!!」
「さぁ行きましょう、楓さん。」
不満気な椛を居間に残し、智季は僕の背中を押してくれた。
智季の、こういうとこって何か好きだな…。
僕の気持ちを読んでんじゃないかって具合に、察してくれる。
でも…僕は少し不安になった。
また椛のクセが出始めてることに…。
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