少年女神T
もう8月も終わり、9月には新学期が始まった。中学入って初めての新学期は夏休みの
宿題テストからスタート。「真都、英語どうだった?」
すかさずやって来るのが小学校から親友の織原笙。
笙とは、小学校6年間同じクラスで、何故かとても気が合う奴。身長は俺とはぼ同じの157cm。
まだまだ伸びる気配がある。「英語は出来たと思う。」
「さすが、4分の1は英国人だな。」そう、俺の母方の祖父母が英国人。だから長期休暇にでもなると兄弟でしょっちゅう遊びに行ったりしてて
日常会話ぐらいなら、自然と話せるようになったのだ。「でも数学はボロボロだぜ。」
「ふ〜ん。でも人間は一つくらい、短所があったほうが可愛いって!」
そうゆう笙は英語の出来があまり良くないとみた。
「今回こそは一位奪還したいよ。なぁ真都、誰が一位だと思う??」
「ん〜さぁ。三村は?あいつ性格最悪だけど、頭はいいじゃん。」
「そうだよなぁ。」ここの学校は順位を壁に張り出さず、順位表だけが自分の手元に配られる。
だから自分で言わない限り、順位が表にばれたりはしないのだ。
ちなみに俺は中間は学年で7位、期末は6位。…笙には両方とも負けたけどね。「おい、あいつ、またやってる。」
笙が少し後ろの方を目で合図した。そこには三村にからかわれてるクラスメイトがいた。
彼の名前は大野卯月。大野はいまだにこのクラスに馴染めてはいないのだ。
彼は小学生の時から三村を始めとする一行にいじめられていた。他の生徒は次が自分の番だと恐れ、見て見ぬふり。
いじめの原因は数年前にさかのぼる。
大野の家はここら辺ではちょっと名の知れた中小企業だった。それが不景気で倒産し、莫大な借金だけが残った。
父親は蒸発し、大野兄弟は母親の腕だけで育てられた。その母親は借金を返すために今も昼夜問わず働いている。
この話は俺らの世代では有名な実話だ。それ以降、‘大野に近づくと不幸が移る’と噂がたち、今にいたるのだ。「やめてよ!」
「うるさい。お前が学校に来るから悪いんだ。」しかも三村は外面は良く、先生受けがいい。先生の見てろところでは絶対に悪いことはしない。
今だって、アホな理由をつけては大野をいじめている。その度に俺と笙は腹を立て、注意をしているのだけど、
それは止まる気配を見せない。
「おい、三村いい加減にしとけよ。中学生にまでなってそんな幼稚なことするなよ。」
鶴の一声、とはこういうモノなんだろうか。笙が一喝すると、三村は渋々やめる。笙を本気で敵に回すと痛い目に遭うって
解ってるんだ。
「大野も大野だ。そんなにウジウジしてるからイジメられるんだ。」
「笙、言いすぎだ。」
「この際、はっきり言わせてもらう。いつも俺らが止めに入ってるけど、それがいつまでも続くと思うなよ。
自分の身は自分で守れ。」
「…織原君…」
前髪で目は隠れてて、今時ない大きな眼鏡。大野は細い声で鳴いたのだった。
放課後、朝の天気予報は見事に命中。
午後の授業から目に見えるスピードで雲行きが怪しくなっていった。そして、授業が終わる頃にはザーザー降り。「ひゃ〜傘持ってきといてよかった。」
こんな雨の中、傘をささずに帰ったら翌日は熱がでること決定だな。
俺は帰宅部なので、掃除が終わったら土砂降りの雨の中、一人で家路についた。
本当は笙と帰りたかったんだけど、あいつは以外にも料理部に入ってしまい、今日が活動の日。
今日の出来事を頭の中で反映させて、家まであと数メートルという公園に差し掛かった。
公園の方をチラリと横目でみると、何かに目がいった。
…誰か泣いてる?
あれは、同じ中学の制服。びしょ濡れになり、小さな肩を震わせては、泣き声を我慢しているように見える。
「おい、どうしたんだよ。」
思わず、声をかけてしまった。
「……。」
泣き声を殺し、うずくまってたのは間違えようもなく、大野卯月。
「大野!どうしたんだよ!」
濡れてぐちゃぐちゃの大野を立たせ、傘の中に入れる。理由を聞くが、泣いて下をむく一方で何も聞き出せない。
「泣いているばかりじゃわからない。ちゃんと言えよ。」
「…みっ、三村くん、たっ達が、…僕の、カバン、どっ、かに、隠した…んだ。」
一生懸命に喋る。
俺は本当に腹が立った。あいつら、まじでぶん殴ってやる!
「大野、コレ持っとけ。」
俺がさしてた傘と、カバンを大野に渡し、俺は大野のカバンを探す。
公園中のありとあらゆる場所を探した。なのに見つからない。
雨は止むどころか、俺らを嘲笑うかのように一層激しくなるばかり。
「…もういいよ、上宮君。本当に風邪ひいちゃう…。僕、一人で探せるから、もう帰って…。」
「だってよーお前!大野は悔しくないわけ?」
腹立たしさのあまりに、大声で怒鳴ってしまった。大野は俺の怒鳴り声が怖かったのか、それとも濡れた体で寒いのか、
震えていた。…多分両方だろう。
「…悔しいけど、上宮君に迷惑をかけるよりはマシだ。」
雨か涙で濡れている顔で俺を見上げた。前髪の隙間からは大野を大きな黒い瞳が俺を見ていた。
間近で見たら、綺麗な肌をしている。顔も人形なように可愛いのではないかと、不謹慎にもそう思ってしまった。
たった5センチ、俺が高いだけのこの距離。その顔をちゃんと見てみたいという好奇心が生まれ、前髪を払おうとした。
ちょうどその時。
「おい、真都。何やってんだ。」
ちょうど部活帰りの笙がひょっこりと顔を出した。
「あれ、大野も。二人してびしょ濡れじゃん。」
「三村の奴が大野のカバンをどこかに隠したんだよ。」
「カバン?ってコレのこと?」
そう言って見せた二つの指定カバン。一つは笙の、そしてもう一つは…
「そ、それ僕のっ」
ご丁寧にも‘大野卯月’と名前が書かれており、硝子の地球のキーホルダーがつけられていた。
「ありがとう…織原君…。」
「いいよ、別に。ちょうど届に行こうと思ってたし。」
やっとこれで一件落着だ。大野本当に嬉しそう。よかったな。
「それにしても三村、マジで殴んねーと気がすまない。」
「同じく。あいつ、そのうち取り返しのつかない事しそーだ。」
大野は独りで、どのくらうの時間をかけてこの暗闇の中を探したんだろうか・。
「あの、僕帰るね。弟待ってる、から…。」
雨の中をまた走って帰るつもりらしく、走り出そうとしていた。
「う、上宮君、ありがとう。…風邪ひかないでね…。」
にこり、と笑った顔。いつも下を向いていて表情を見せない大野が笑った。
…もしかして、初めてじゃないか?気がつけば俺は、大野の腕をつかみ、呼び止めていた。
「…今日、夕飯食っていかない?」