魅惑のエスコート・2
「なぁ憲ちゃん。」
「んーー?」
テストも何とか無事に終わり、酒井憲太は喜々と部活に参加していた。
赤点が一人でもいると大会には参加できない。
これが慎也にもカテキョをつけた原因であった。
朝は学校に着くなり憲太と二人で単語暗記、夕方は遅くまで居残って先生のところへ。
兎に角、無事に平均点もクリアし、なんとか今度の大会には出られそうである。
「あのさー」
慎也はさっきからサッカーボールに足を乗せ、ユラユラしていた。
何も、やる気が起きないようである。
「何だよ、はっきし言えよ。」
「土曜、ヒマ??」
憲太は傍でやってたリフティングの練習をやめ、ボールを慎也の方に軽く蹴った。
慎也はソレを胸元で受け取り、そのまま2、3回リフティングをしてはボールを地面に下ろした。
「…ヒマ…だけど…」
「その日って、カテキョ入ってんの?」
「テストが終わると、ご褒美で次の週は休みをくれるんだ。」
「じゃあさ、大学行かない?」
「大学ぅ?」
慎也はその顔とは裏腹に、自己主張が強く、行き当たりばったりの性格である。
それは憲太も承知。
「でも、彼女とデー…」
トしたいんだけど と言いたかったのを遮られてしまう。
「この前、彼女とちょっとしたお泊りに行くのに、誰の名前を貸してやった?」
そして弱みを握られると敵わない存在。
「―‐―うっ」
そう言われると、拒否権も何もなくなるのでは…と憲太は思う。
『もしもし、健太さん?慎也ですけど、今健太さんの大学にいるんです。』
そう言って健太の携帯に呼び出しがくらった。
健太は一瞬‘何で?’と思ったけど、かろうじて口には出さなかった。
その時、一人で実験室を使用していた友行の携帯も鳴った。
相手は勿論、健太からである。
白衣を脱ぎ捨て、作業もそのままで友行は健太と合流し、慎也が指定した正門まで駆け出した。
「あ、アレ。友行さんと健太さんじゃないか?」
最初に二人に気づいたのは憲太が先である。
慎也は‘友行さんも一緒’が気に食わなく、あからさまに顔に出した。
正門は駅から近く、大きな道路に面して店もたくさん並んでいるので人が多い。
ほとんどが大学生の中、高校生二人は少し肩身が狭い気がしていたのだ。
別に私服だから悪目立ちはしてないものの、やはり威圧感があるらしい。
この威圧感こそが高校生と大学生の見えない壁なのかもしれない。
「憲太くんに慎也くん、どうしたの?」
知り合いに会えた嬉しさで、憲太は尾を振ってる犬みたいに友行に飛びついた。
「わっ」
「慎也が、下見として大学見学したいって言うからっ、俺、俺!」
声色で‘心細かったよ〜!’というのが聞き取れ、友行は憲太の頭を撫ぜた。
「まぁ今のうちからしていてもいいもんね。」
健太は友行と教え子・憲太のやりとりに少しムッとするものの、二人の間にはは入れないのだ。
先生と生徒…と言うよりは兄と弟。
「健太さん、すいません。突然きてしまって…」
「ああ、別にいいよ。俺も丁度ヒマしてたし…」
申し訳なさそうに慎也は健太に歩み寄り、軽く謝った。
「俺、藍川って雲の存在だってずっと思ってるんですけど、大学に来て健太さんの頭の良さを改めて実感しました!」
自分よりも背が高くて男にも女にもモテル健太としては、ご無沙汰なシュチュエーション。
甘えるような、だけど少年独特の持つ瞳は、いつの時代だって相手を刺激する。
今の好みは友行で、恋人も友行だけだが、元は年下好きの健太である。
本気の恋を未だ経験していなかったらキープ君でもしたいところ。
「別にすごくないけど…」
こう見えても現役入学。
入学するまでが大変だったけど、したらしたらで『ああ、こんなもんか…』と感じた、
「慎也慎也、去年の新入生代表って、友行さんなんだぜ。」
一通り友行と抱擁し安心した健太は、アウト・オブ・眼中だった慎也に目を戻した。
「へぇーすげーな!」という返事が来ると思っていたら
「ふーん、あっそ。」
と言う、なんともあっけない返事が返って来て憲太は「あれ?」と首をかしげた。
あんたなんかに興味はありません、の返事のあと慎也はサッサと視線を健太に向け、独占するように腕に巻きついた。
その行為に憲太はまたもや疑問符を飛ばし友行の方を見るが、大して気にしてないように見える。
心が落ち着かない様子で友行を見つめるが、逆に「どしたの?」と心配されてしまった。
しかし、健太はいい気がしていなかった。
自分の大切な人が鼻で笑われた感じがするからであった。
友行は入試TOPだったからと言って、自慢するわけでも得意げにするわけでもなかったのだ。
ましてや自分からそんな事を公表はせずにいた。
健太が友行が入試TOPで合格したと知ったのはココの大学に入ってからすぐのこと。
図書館にあった藍川大学発行の新聞(つまり校内新聞)に目を通した時に、偶然発見しただけである。
健太は友行を連れて、学校に戻ろうとした矢先、健太の行動より先に友行の携帯が鳴った。
「はい。」
友行が出てみると、ゼミ仲間の奈那子からであった。
「健太くん、ごめん。奈那ちゃんに呼び出されてしまっちゃいました。研究の続きをしろってお説教された。
じゃ俺戻るけど、健太くんヒマだったら二人を校内見学に案内でもしてジュースか何か奢ってあげて。
じゃあね、二人とも!」
「わかりました。」
「友行さん、またね!!」
憲太は名残惜しそうに走り去って行く友行に手を大きく振っていた。
友行も振り返しながら手を振っていたけど、それもやがて人に埋もれていく。俺、あんましこの子達のこと、知らないんだけどなぁー
それに慎也って子、なんか苦手だ。健太はカバンから滅多に吸わない煙草を一本、取り出して吸い始めたのだ。