誘惑のエスコート 6
静かな眠りについていた健太は、突然の来訪者により、その眠りを妨げられた。
一週間のうちの癒しの日曜日。
大体は昼近くまで眠り込む健太なのに、時計を見れば9時を回ったところだ。
「…誰だよ…」
ノソノソと起き上がり、寝ぼけ眼のまま鍵を開けると友行が立っていたのだ。
「…どぅしたの…こんな朝早くに……」
健太はまだ眠く小さな欠伸を一つ。
何も反応が返ってこないのが不思議に思い、友行の顔を見ると何かが違ってた。そう、いつもの笑顔がない。
何かあったのかな…と考えてると、友行は無言で部屋の中に入って行く。
友行は鍵を閉めて、今度は健太を寝室、つまりさっきまで健太が寝ていた部屋まで健太の手を引いた。
意味が解らずにされるがままの健太は、頭に疑問符が飛ぶ。
「ちょ、高永さんっ…!」
友行はコートを脱ぎ捨てて、健太を振り向き際にベッドに押さえ込んだ。
「っえ…」
いきなり押し倒されて、しかも寝起きの頭は何をされてるのか正常に働こうとはしない。
「な、何するんですかっっ。」
抗議の言葉も、友行の小さな手により塞がれてしまった。
友行は健太に馬乗りになり、艶かしい瞳の色を浮かべては男を誘うように指で頬を撫ぜる。
いつもと違う雰囲気の友行に、健太は逆に戸惑う。
大人しく口を紡ぐのがわかると友行は、その手を外した。
「俺、健太くんを離す気ないから。健太くんが年下好みだってのは知ってる。慎也くんが健太くんの事、好きなのも知ってる。
最初は健太くんが、アッチの方がやっぱり良いって言ったら、それで終わりかな…って思ってた。
仕方ないよね…って。でも俺はそれで終われない。
俺は健太くんが好きでたまらないし、離したくない。もし、恋人をやめたとしても、体だけでも繋ぎとめておきたい。」
瞳と瞳がぶつかり、友行の顔が近づいてくる。
キス、する寸前で友行は躊躇したかの様に唇がとまる。
見慣れない彼で、健太は気づかなかったけど、目元がほんのり紅いのがわかる。
大胆な行動と、そのギャップが健太を余計に刺激をした。
キスをされるのを待つように、健太は友行の細い腰に腕を回し、腰を押し付けさせた。
友行自身はまだ天を仰いではいなかったが、そうなる事を予測している。
「…っ……」
友行は声が出そうなのを押さえ、健太の形の整った唇に、自分の唇を重ねたのである――。
我ながら恥ずかしい事をしたなぁーと、一人で赤面をし心の中で暴れまくってると、先にシャワーを浴びてた健太が戻ってきた。
あんなに誘っておきながら、最後は自分が気持ちよくなりすぎて気を失ってしまったのである。
「高永さん、起きました?」
バスローブ姿で出てきた健太を見てはまた、友行は赤くなった。
直視できなくて、いろんな意味で恥ずかしくて、友行はシーツの中に隠れた。
その横に腰を下ろし健太は、シーツに隠れている恋人に囁きかける。
「…高永さんって、本当可愛いですよね。」
「…俺は、健太くんの方が可愛いと思う……」
シーツの間からの隙間で風呂上りの健太くんを覗き見すると、ばっちり目が合い、また恥ずかしくて隠れてしまう。
健太はそんな友行を抱きしめたいと思いながらも、背中を向ける。
恥ずかしがり屋の恋人は、待つのが一番なのだ。
そうすると自然にあちらから歩み寄って来るのは、発見済み。
友行は健太の背中に背中を合わせてもたれかかった。
「やっと出てきましたね。」
「……ん。」
「俺、昨日ですね、慎也君に『恋人がいてもいいから俺と付き合って』と告白されたんです。」
…やっぱり…
「まぁ昔の俺なら即座にOKしてたんでしょうけどね。顔も性格も申し分ないし。でも今の俺は恋人の事で頭も体もいっぱいで他にまわす余裕がないって断っちゃいましたけどね。」
「…それで……よかった…の?」
「誓います。俺は高永さんしか欲しくない。ですから、安心してください。」
健太は自信満々に答えた。
だって、その気持ちに嘘偽りなどは無いのだから。
―――貴方を知って、僕は本当の恋を覚えた。
「信じていいの?」
「もちろんです。」
チラ…と後ろを向く。
「ん、信じる。」
手と手が優しく触れ合い、膨れっ面の友行を抱きしめようとしたら、チャイムが鳴った。
「っち、誰だよ。」
バスローブ姿で出ようとした健太を、必死に友行は止めた。
「もしかして、それで出るの?」
「着替えるの面倒くさいじゃないですか。」
「俺、出るから、待ってて!」
健太をベッドに座らせ、友行は床に無造作に振り投げられたままの寝巻きの上を羽織る。
もちろん、その寝巻きは健太のである。
「…それで出るんですか?」
「うん。減るもんじゃないし。」
男心をくすぐる格好に、健太はまた欲情しそうになる。
トタトタと廊下を走り、ドアを開けると、友行の予想的中。
今日は何故だか第6感が的中した。
「…何かよう?」
相手は慎也である。
慎也は友行の姿を上から下まで見下ろし、ナニをしていたのかは悟った。
しかし、そんなのを顔に出すマヌケな事はしない。
「…イヤガラセ」
中々入って来ない友行を見に来た健太の前で、慎也は友行にキスをした。
それも、触れるだけの可愛いやつではなく、舌を入れてきたのだ。
突然の事で、慎也以外の二人は身動きがとれないまま。
「――!!」
「……!!」
それは一瞬の事ではあったが、二人を驚愕させるには十分である。
「じゃあね、バイバイ!しょうがないから健太さんの事はあきらめてあげるっ!」
初めて年相応に笑って走り去る慎也に、友行も健太も目が釘付けである。
嵐が去った……そんな感じだ。
「…高永…さん」
「ん?」
先に我に返ったのは健太。健太は友行を引き寄せ、キスをした。
そのキスにウットリと目を伏せる。
「消毒です。」
慎也よりも自分を選んでくれた嬉しさで、友行は健太に思わず飛びついてしまう。
「部屋の中でもっと、消毒してよ…」
返事をするかわりに鍵が閉まる音が耳に響いた。
END