誘惑のエスコート 5
朝も少し過ぎた大学構内。
友行は授業を待つ席で大きく背伸びをした。
昨日、夜遅くまで友人達と麻雀をしていて騒いでいて、少し眠い。
今度は大きな欠伸をして目をこすってると、親友である作田秀雄が隣に座った。
「お、作田おはよぅ。」
「お前、昨日一人勝ち、だったんだって?」
「そうそう。運が俺に降りてきて、皆に悪い気がして」
しかしその笑みはやはり嬉しそうである。
ニコニコと昨日の出来事を話し出しそうな友行に、作田は一瞬、自分がしたい話題を忘れそうになる。
「…じゃなくって!友行、あいつには気をつけろよっ!」
「…あいつって?」
作田は頬杖をつき、友行を一見した。
多分、言わなくてもわかってるだろう、
「‘慎也’って奴。」
その言葉を聞くやいなや、友行から笑顔が消えた。
「…何で」
「そんなの、言わなくてもわかるだろ。お前の恋人、狙われてるぜ。」
頭で考えたくない事をつかれ、友行は不安そうな瞳を落とした。
慎也の行動をみていれば、どんなに鈍い奴だって気づくほどのアプローチ。
「―――やっぱ、そう思うんだ。…健太くんって、かっこいいし、頼りがいがあるし、人当たりもいいから何となくわかるんだ。
『ああ、この子、健太くんに恋してる…って。」
少し前の自分はまさしくその状態。
見てるだけなんてできなくて、成り行きで声をかけてみたけど見事に玉砕。
一度は諦めようなんて考えはしたけど、もう一度チャレンジ。これでダメなら本当に諦めよう…なんて考えながら。
なのに慎也の方は、振られても振られても、諦めようとはしない。
当時の自分と慎也との決定的な違いは‘自信の大きさ’である。
慎也もあの光り輝く太陽に魅せられた、大輪の花。
「健太って、元は年下好みなんだろ?そんなんで大丈夫なのかよ?」
「…でも、人の恋愛なんて変わる事だってあるし…。健太くんが慎也君を選んだら、それで終わりかな…って。
健太くんは本来年下好きだしね。今、年上の俺と付き合ってるって事じたい奇跡みたいなもん。
本当、年下に生まれたかった…」
他はカバーできても、年の差だけはカバーできない。
それが痛いほど身にしみてくる。
友行は鞄から携帯電話を取り出し、電源を入れた。
「…今日の夕方、慎也君、勉強みてもらうんだって、健太くんに。何かもう、本気って感じだよね。」
「お前、それで」
「いいんだよ。勉強教えるだけならっ。」
友行は少し声を大きく張り上げ、作田に先ほど出した携帯電話を見せた。
それを受け取り、見てみると友行の教え子の酒井憲太からのメールであった。
『友行さん、大変大変〜(≧△≦;)慎也やっぱり健太さん狙ってるよっ!今日の夕方勉強見てもらうって昨日張り切ってた!
友行さん、気をつけて(@п@)』作田は可愛らしいメールを友行に返し、苦笑した。
「…こいつって、どっちの味方なんだ…」
「…さぁ。どっちでもないと思うよ。その方が憲太君にとって良いと思うし。」
ハァ…と一つ、ため息が出た。
「もてる恋人を持つと苦労するね。」
その日の夕方。
慎也は大好きな部活を休んでまでも、健太との勉強を優先した。
少し憲太が寂しそうな表情をし、後ろ髪を引かれながらも学校を出た。
(あいつってたまに襲いたくなるよな。)その事を思い出して、クスクスと笑ってしまっていた。
「何、何か良いことあったの?」
隣で英訳の本を読んでる健太に突然聞かれ、慎也は軽く笑う。
「憲ちゃんって、たまに子犬みたいな顔するんですよ。めっちゃ可愛くて、ついつい」
「苛めたくなっちゃうとか?」
「正解です!」
目の前で綺麗に笑う健太に、慎也は内心ドキドキしている。
黒いセーターを着ていて、その下から出てる草色の襟。
今すぐにでもその胸に飛び込んで行きたい。
「あ、そうだ。健太さん、俺ここわかんなかったんだけど。」
「ん?どこ?」
大胆な所もある慎也ではあるが、好きな人と一対一はさすがに緊張する。
「ああ、ここはね…。」
英文を覗き込む体勢で健太は慎也に近づくと、その場には不適切な質問も挙がった。
ここからが、慎也の本領発揮である。
「健太さんって、恋人いる?」
「……なに、いきなり。」
鉛筆を持つ手が止まり、健太は慎也の顔を見た。
その表情はどこかしか、男を誘う。
「いる?」
「…いるよ。」
予想通りの答えであったも、慎也は怯まない。
「俺さ、健太さんに恋人がいても全然OKだからさ、俺を恋人にしてくれない?」
「………え?」
同時刻。
テレビを見ていても上の空だった友行は急に思い立った。
「あ、そーだ。明日一緒にご飯食べられるか、メールしておこっと。」
本当は二人きりであろう、慎也と健太の事は考えたくなかった。
本を読んでも、テレビを見ても、勉強してても頭に入ってこない。
メールを打つ指も心なしか重い。
「……送信…っと。」
慎也の部屋では静かに、友行からのメールが受信された。