魅惑のエスコート


俺は自慢じゃないが男にも女にも不便をした事がない。
日本人離れをしたこの長い脚に、長い腕。そして185センチはある、この長身。
顔も世間では‘男前’や‘ハンサム’‘かっこ良い’と、堂々と言えるレベルである。それは自他共に認めてる事。
ひっきりなしで俺と交際をしたいと言い寄ってくる奴は後知れず…。
来るものは拒まず、去るもの追わずだから、一度に複数の人間と付き合った事もしばしば。
そろそろそんな生活に、少し飽きたので今はフリーとなっている。
それを知ってのことか、キャンパス内で呼び止められたのであった。

「あっ、あの、俺と付き合ってください…!」
そいつは顔をトマトの様に真っ赤にし、体を小刻みに震わせながら俺の前に立ちはばかった。
身長は男にしては、ちょい低めの160センチ後半だろう。俺からしたら、この人の旋毛がキレイに見える。
顔は…まぁまぁだな。少しソバカスがあるが、別に気にならないし、むしろチャームポイント的なものに思える。
見た感じでは‘ソバカス美人’。
「ええ、いいですよ。あなたのお名前、聞いても宜しいですか?」
相手が男だろうと女だろうと、最初は敬語で。年下でも、タメでも敬語から入る。
構内で感嘆のため息がもれると噂の、ダイナマイトスマイルで返事をしてやると案の定、そいつも魔力にかかったみたいに俺に見とれた。
「高永友行と申します。」
お、笑顔は結構可愛いじゃん。こいつ、磨けば良い男になるかもな。
でも、俺は高永友行氏の次の言葉で前言撤回をしてしまった。
「2年生で、理工学科に所属しています。」
だって俺、年上は趣味じゃないんだ。

 

「で、その高永友行さんを振って帰って来たんだ。」
ここは行き着けの喫茶店。大学の近くにあり、日中人で賑わいをみせている。大半の生徒は俺の大学の学生であるが。
「だって俺は、甘えたいより甘えられたい派なんだぜ?可愛く甘えられてみ?もう胸がドッキドキになるね。
それに年上なんて言ったら、もろ年下が甘えるみたいじゃん。」
クーラーの冷え切っている室内で飲む牛乳は格別に上手い。氷が入りすぎて、牛乳本来の味が薄まっているのがたまにキズだけど。
俺の前に座り、女でも食えきれないようなデッカイ苺パフェを美味しそうに口に運んでる悪友、山本哲は面白そうに提案をした。
「一度付き合ってみて、ダメだったら捨てたらいいじゃん。お前、そういうの得意だろ?」
「あのねぇ、俺、自慢じゃないけど自分から告った事、一度だってないのよ?それに一度振ったのに、付き合ってくれって
すげーみっともない。まぁ、あっちが言ってきたら別だけど。」
「言ったな〜。」
「男に二言はない!」
俺はそんな事、ありえないと思ってたから、大きく出たつもりでいた。
なのに、現実は小説より奇なりとは、よく言ったもんだと、その後の展開で頭に浮かぶ事になる。
その後の展開…それは一日経ってから、彼は二度目の交際を申し込んで来たのである。

 

「あ、あの、付き合ってくれてありがとう…!」
帰りの電車。
「や、高永さんの熱意に負けて――…」
何故か路線も同じ…。
今日の昼、学食を食べてる所に彼はやって来た。昨日と同じ、赤い顔をして。
『ってゆ〜かさ、何で俺と付き合いたいわけ?』
なんとか突き離そうとして、俺なりにキツイ言葉を投げつけてみるも、
『ひ、一目ぼれ…かな?』
怯むことなく、可愛い理由を俺に返してきた。理由がいくら可愛くても、趣味じゃないものは趣味じゃないんだ!
本来ならココでもっときつい言葉を言って、諦めさせるんだが、タイミング悪く哲がいた。
あいつは『約束だろ?男に二言はない筈だよな?』と言う視線を俺に向け、傍観者きどり。
いや、傍観者なんだけど…。
確かに俺はあの時、言った。男に二言はない、と。
だから仕方なく、この交際をOKしてやった。高永さんは向日葵のように、大きな笑顔で嬉しそうに笑った。
そして、今にいたる。
「具体的に高永さんは俺と何がしたいの?俺、一歳とは言えども、年上って初めてだからリードしてくれる?」
「うん。」
高永さんは気合充分に頷いた。リードするといっても、どうせ体目当てなんだろう。
今までに何人もそういう奴、いたしね。
しかし電車まで一緒となると、帰りは家に誘ったほうがいいのかな?それとも俺が相手の家に行くとか?
そんな事を頭の中でバカみたいに考えていたら、いつの間にか俺の降りる駅に着いた。
電車の中では、あまり話しはせず、高永さんは窓の外を見つめたきりだった。
照れくさいのか、緊張しているかのどっちかだとは思うんだけど。
俺も俺で、変な考え事をしていたから、いつもみたいに相手を乗せる話なんてしなかった。
「俺、ココだから。」
「うん。じゃあ、また明日。」
高永さんは寂しそうに、小さく手を振った。
手を振る方に付けられているリストバンドが、心なしか重そうに見える。
少し後ろ髪を引かれながらも、俺はホームから降りた。
あ、そういや俺、高永さんの降りる駅知らないや。
どーでもいいんだけどさ。

 

 

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