魅惑のエスコート 2


「…………。」
何でこの高永さんは、この炎天下の中、こんな場所で寝てられるのだろうか…。
構内にいくつも存在する、木で作られたベンチ。
そこに高永さんはお世辞でも‘胸キュン’とは言いがたい顔で眠っていた。
いつも使っている黒のカバンは枕代わりに。
左手は胸の上において、右手はだらしなく地面についている。
その右手のにかろうじて握られているのは、勉強をしていたと思わせる資料本。
左手と胸の間には、数枚のレポート用紙がグチャグチャに挟まれていた。
上から見下ろし、何故俺はこんな人と付き合っているのだろうと、疑問に思う。
「ほら、高永さん。起きて。」
「っん〜。」
「いくらココが木陰だからって、こんなトコで寝ないで下さい。蚊に噛まれちゃいますよ。」
ユサユサと上下に揺さぶっても、彼は起きようとしない。
気持ちよさそうに寝ているのを、起こすのは少し躊躇してしまう。
でも、俺としては授業中ならともかく、外で無防備でなんか寝てほしくない。
カバンの中には財布や身分証明書だって入ってるんだから、もう少し警戒をしてほしいもんだよ。
なんとか高永さんを起こそうとし、もう少し大きく揺さぶってみた。
「高、永、さん!!」
声を大きくあげるのと同時に勢い余って彼は反対側へ見事転落…。
‘ドッシーン’といった効果音が鈍く構内に響いた。
「いったーー!!」
「す、すません!高永さん…。」
「誰だよ…って、健太くん。」
高永さんはベンチからまっ逆さまに落ちて、ようやく目覚めた。
ベンチと言っても、地面からは距離がある。落ちたら嫌でも目が覚めるだろう。
やはり痛かったのか、肩から胴体にかけて少し擦っていた。
…キズ、大丈夫かな?
「健太くん、どうしたの?」
「その健太くんっての止めて下さい。幼稚園児じゃあるまいし。高永さんこそ、どうしたんですか。
こんな暑い日に昼寝って。」
落ちてしまった本を拾い上げる。本を見てみると文系の人が見ただけで拒絶反応を起こすような題名だった。
事実、俺は根っからの文系なので、こんな本見たくもない。
それなりに頭は良かったけど、どうしても理系は苦手なのである。
一度、理系の人の頭の中身を見てみたい。
「はい、本。落ちましたよ。」
「ありがとう。レポートの提出が期限ギリギリだから、場所問わずに集中しちゃうんだよ。」
落ちたレポート用紙も拾い上げ、キレイに揃えてから、彼に渡す。
「でも、こんなトコでやらなくっても。家とか、図書館とか、他にも場所はいっぱいあるでしょ。
「確かにそうなんだけど、家ではやりたくないんだ。それに、木陰の方がはかどるかなって。」
高永さんは、サラリと現代人が言わなさそうな事を言い、本とレポート用紙を一緒にカバンになおした。
普通、クーラーの効いてる部屋の方がはかどらないか?
この人、いつか『妖精さんが見えた』とか言い出しそうなタイプだよ、絶対。
「健太くんはこれからどうするの?」
だから健太くんは止めろって。恥ずかしい。物覚えの悪いお人だ。
「俺は今日の授業は終わったんで、これから帰って明日提出のレポートの最終チェックしますが。」
「…ふーん。」
このレポートを落とすと、単位は無いものと思え!って先生が脅してきたから落とすわけにはいかない。
高永さんは少しつまらなそうな顔をして、俺に背を向けた。
少し茶色の髪は汗ばんで、その汗がうなじを滴る。
高永さんのうなじは、一言で言うと美しい。
女とは別の美しさがある。汗で湿ついた髪が、うなじを隠すように張り付いている。
「よかったら、うち来る?」
「え?」
別に欲求不満というわけではない。付き合ってても相性が悪かったら他の人とも寝る。
「…でも、」
外見とは裏腹に、俺の本性を知ってる奴からは‘最低’のレッテルを貼られている。
そしてそれは、今まで付き合った奴の数人にも付けられた。
「おいでよ、ね?」
戸惑い気味の高永さんをその気にさせるのは、泣いている子を黙らせるよりも簡単である。
ダイナマイトスマイルで笑いかければ、どんな人間もイチコロ。
一部の例外、なく。

 

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