魅惑のエスコート 11


それから五日。高永さんは大学に出てきてないようだった。

「本当に恋人になったのか?」
「なった…と思う。」
鉄に今までの経過を大まかに話してみた。
最初から祝福してもらおうとは思ってなかったど、本当に祝福はしてくれなかった。
それどころか、鉄は俺が一人の人に決めたのに驚き、持っていた紙コップを落としそうになったのだ。
「で、それ以来会ってない…と。」
それは解っていても、実際に言葉として表されると、不安がよぎる。
「高永さんこそ、遊びだったんじゃなかったのか?」
「そ、そんな事はない!!と思う…」
「お前、変わったよなー。少しは恋愛に不安になるという気分がわかったんじゃねーか。」
ズケズケと自分の思った事を口にする鉄は、俺に対して‘遠慮’という単語はないのだ。
それに、俺の痛いトコをつくから、安易に言い返せない。
まぁ俺も、鉄に対して遠慮はないけど。
「図星かよー。」
「煩いなっっ」
セミの鳴き声はいつの間にか止み、真っ青な空には飛行機雲が一つ。
太陽は今日も眩しい。
高永さんは言うんだろうか、『太陽は、健太くんみたい』って。
そんな声が聞こえた気がした。
「…オイ、健太、」
肘で突付かれ、鉄が視線を向ける方にゆっくりと目をやる。
心臓が高鳴る。
…そこにいたのは…


「高永さんっっ。」
そこにいたのは、傷だらけの高永さんだった。
「五日ぶり、健太くん。」
頬が大きく腫れあがってシップが貼られ、口の端に小さなバンドエイドが一つ貼ってあった。
今日だってこんなに暑いのに、長袖のパーカーを着ている。
俺の推測で終わって欲しいけど、パーカーの下はアザだらけじゃないんだろうか。
日焼け防止で着ているとは、思いにくい。
「…その顔…」
「ああ、コレ?翔一にやられた。健太くんの事、本気で好きだから、翔一とはセックスしないって言うと、やられた。
昨日まで離してもらえなくて。いやぁ困ったもんだよ。
でもね、五日で助かった。長かった時は、一ヶ月だったもん。」
何事もなかったように喋るけれど、俺はそうはいかない。本気で腹が立った。
あいつはどこまで高永さんを縛りつけたらいいんだよ。
今すぐ、それこそ大学内だろうが家であろうが、翔一を殴り飛ばしたい。
心の奥で怒りが湧き起こってくる。
そんな俺に気づいたのは、高永さんだった。
「大丈夫だよ、健太くん…。翔一も気が済んだみたいだし…。
俺にチョッカイをかけて来ないと思う…多分。健太くんにもチョッカイかけないようにしといた…。」
ギュッと小さな手で俺のシャツを握った。
そこから伝わってくるように思えた、高永さんの気持ち。
「…顔、痛い…?」
そっと箇所に触れる。
少し熱を帯びた頬は痛々しく腫れていた。
「今は痛くないよ。」
「よかった…」
「あのー…」
後ろから申し訳なさそうな声がした。
…忘れてた!鉄がいたんだよ!
「俺、帰るから。あとは若いお二人さんでチョメチョメして下さい。」
「鉄!」
「じゃあな。」
何か、鉄に悪い事したかも。だってこの後一緒に映画に行く約束してたのに。
でも、こんな状態の高永さんを置いていくなんて、今の俺にはできない話。
さて、これからどうしようか?


「高永さんは今日、バイトはないんですか?」
「今日は夜の8時か11時までカテキョのバイト。それまでならゆっくりできるよ。」
行き場がわからなくなった俺達は、とりあえず高永さんの部屋まで行くことにした。
改めて二人きりになると照れがあって、何を話したらいいのかわからない。
「はい、お茶。」
「ありがとうです。」
氷がカランと揺れ、涼しさを一層に増す。
「あのね、健太くん。」
「はい、」
「エッチは…」
「はぁ!?」
何を言い出すのかと思いきや、ナニを言い出すんだ。奇想天外だったので思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「俺の身体のキズが治ってからでいい…?」
「な、何言ってるんですか…!そんなの、いいに決まってるじゃないですか。俺ってそんなにオオカミに見えます?」
「見える。」
イタズラをし終えた子供のような笑いを浮かべ、俺にキスを仕掛けてきた。
「へへ。健太くんがちゃんと耐えれるか、試してみます。」
瞳を閉じてキスを待つと、恐る恐る唇が重ねられた。
高永さん、耐えれなかったらごめんなさい。
心の中で謝っとく、俺だった。

 

            END

 

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