魅惑のエスコート 10
「ほ、本気で言ってる?」
予想もしていなかっただろう言葉に、高永さんは目を見開いていた。
「俺、年上だよ?」
声もかすかに震えている。
「知ってます・」
「健太くんの好みは、年上なんじゃ…」
「今の好みは、高永さんなんです。」
さらにきつく抱きしめ、子供だましのようなキスをした。
あの時、不意打ちのキスでは味わえなかった甘さが広がる。
ちゃんと味わうキスは、水々しくて可愛かった。
子供が持っているような、独特の体温が唇から伝わって来る。
目をギュッっと閉じて、照れを隠している姿が余計に俺をソソルのだ。
そして、耳元でねだるように返事の催促をする頃事も、忘れずに。
「ねぇ…返事は?」
男と寝たことのある人なのに(今思えばなんか腹立つ)、こういう展開には慣れていないんだ。
よくエロ本のキャッチフレーズである、『昼は淑女、夜は娼婦』みたいな感じかな。
あれで反応する男の気持ちがわかった気がする…。
「…言わなくても、わかってるだろっ…」
潤んだ瞳で俺を見上げ、頬をキレイな桜色に染めて、ようやく一つの返事をくれた。
緊張と不安で支配されていた時間は一瞬にして消え去り、水が流れるように体の力がなくなっていくのが、わかる。
ほんの数分なのに、数時間だと思わされた。
「高永さん…」
顔を近づけると、うっとりと目を閉じて高永さんはキスをされるのを待った。
俺とのキスに慣れてないせいか、それともキス自体に慣れてないのか、初々しさが可愛くて理性を保てるか
心配な俺なのだ。
ならば理性があるうちに止めればいいじゃないかと思うけど、それは無理な話。
中毒のように、病み付きになってしまう。
「…高永さんがよければ、俺…」
熱い視線で高永さんの瞳を捕らえる。本来ならココでゆっくりと押し倒して、行為に入る。
けど、この人にはそんな事したくなかった。
口でちゃんと了解が出てからしたい。
「じ、時間…」
「時間??」
「今何時?」
何で今更時間なんて気にするんだろうと、疑問に思いながらも腕時計を見る。
「15時15分前ですけど…」
さっきまでのイイムードは、一体どこへやら。
高永さんはいきなり俺を突き飛ばした。
「バッ、バイト!」
「バイトォ??」
慌てて玄関まで小走りをし、ややこしい靴紐をもつれる手で結んでいる。
「今日、3時入りなんだ。パン屋さん」
ようやく紐を結び終わり、いつものカバンを持ち直し、少し乱れた髪を手グシで整えた。
まっすぐと俺の瞳を見て、夏が似合う笑顔、そう、向日葵の笑顔を俺に向けた。
「じゃあね、健太くん。」
「ああ…いってらっしゃい。」
本当は行かせたくない。ずっと一緒にいたい。やっと気持ちを伝えて、両思いになれたってのに…
どうしてこんなにタイミングが悪いんだよ。
行かせたくない、という俺の気持ちが通じたのか、高永さんはドアノブに手をかけたけれど、なかなか開けようとはしなかった。
くるりと体だけを俺の方に向け、恥ずかしそうに可愛いお願いをして来たのには、正直嬉しかった。
「キッ、キス…してほしいです…」
自信がないのか、視線を地面に落としてはモジモジとしている。
「高永さん、こっち向いて。」
名前を呼ばれ、反射的にこっちを見た瞬間に口を塞いだ。
「…んっ…」
後方は扉で逃げ場がなく、たじろいをしたけど、意味はなかった。
「…ハイ、これでお終い。」
これ以上すると俺もヤバイので、長めの軽いキスで我慢した。俺も、多分、高永さんも。
「ありがと…。じゃあね。」
そして今度こそ、高永さんはドアを開けてバイトへと出かけたのである。
俺は急に恥ずかしくなり、ズルズルとしゃがみ込んでしまった始末。
「…どうしてあんなに可愛いんだ。あの人…。」
まるで中学生の恋。中学生を相手してるみたいで、犯罪者にでもなった気分だ。
俺はこの時も、確かに幸せの絶頂にいた。