魅惑のエスコート 9


今日で高永さんがこの部屋に入ったのが二度目になる。
この前、雪美を抱いたベッド。それを高永さんが見透かしているようで、妙に後ろめたい。
「あのね、健太くん、」
「はい。」
浮かない表情の高永さんが、座るなりすぐさま話を切り出した。
俺は良くない予感がありながらも、それを聞かずにはいられない。
そして、重い雰囲気の中、俺が耳にしたのは思いもよらない言葉だった。
「あのね、やっぱり…別れよ。」
「…え?」
「健太くんも、もとは年上好みじゃないって言ってたしね。俺、年上だし、なんか無理やり付き合ってもらうのって、
ほら、キツイし…ね。」
高永さんは、俺の顔がまともに見れないのか、話し出してからはずっと俯いている。
気のせいでもなく、身体を小刻みに震わせて。
「…俺も、本当は、年下って、好みじゃないし…。健太くん、顔いいから、一度付き合ってみようかな…って。
イイオトモダチでいる方が、絶対にいいって…。」
終いには、声も震え出した。
「それ、本心で言ってるの?」
どこか苦しそうな高永さん、いきなりそんな事を言うなんて、何かあった?
「あ、当たり前だろ!?…じゃなきゃ言わないよ…。」
声が段々小さくか細くなっていき、いつ消えても可笑しくないと思わせる。
本当に、どうしたんだろう?もしかして、あいつに何かされた?
言葉とは裏腹に、高永さんはまだ俺の事が好きなはずだ。
確信はある。
「高永さん、どうして泣いているのですか?」
俺の言葉に驚き、顔を上げた。
そして目元を触り、改めて自分が泣いていたのに気づいた様子だ。
身体を小刻みに震わせるのと同時ぐらいいに、彼は透明な涙も落としていた。
そして、その涙こそが俺のことがまだ好きだっていう、何よりの証拠。
「高永さんは、俺のこと、まだ好きなはずです。泣いてたのに、気づかなかった。
それにその涙。それが本心です。なのに、なんで‘別れよう’なんて言うんですか。
高永さんが別れたくても、俺はまだ別れたくない。」
あいつなんかに、高永さんをとられたくない。
コレがおれの本音だ。
自分のものを、他人にとられるのがイヤな子供の独占欲かもしれない。
それでもいいから、この人を自分の手元においておきたい。

「…翔一がね、健太くんと会わないなら、大学に授業だけ受けに行っていいって言ったから、
会いたくても、一生懸命会わないようにしてたんだ。
健太くんに会えないって事は、すごく寂しかった。」
寂しそうに笑う高永さんが愛しくて、おもわず抱きしめてしまった。
「俺だって、会えなくて寂しかったですよ。」
宝物に大事に触れるかのように、恐る恐る抱きしめる。
彼と出会った当時の俺には考えもしなかった展開に、少し戸惑う。
でも、これは理屈じゃないのは、わかる。
「…嬉しい、そんな事言ってもらえて。」
今まで何人の恋人だった人たちを抱きしめてきたが、高永さんを抱きしめている事が、すごく胸に響いた。
なんて言うんだろうか。緊張しているんだ。
俺の胸にピッタリとくっ付いている高永さん、気づいていますか?
あなたを抱きしめただけで、心拍数が波を打つように速くなっているのを。
「…高永さん、本当に俺と別れるんですか?」
「………」
まだ、肝心な事を言ってくれてない様子だけど、別にいいよ。
俺が今欲しいのは、高永さんだから。
「じゃあ、もう一度付き合って下さい。」
「え!!」
予期せぬ言動に、高永さんの首がバネのように持ち上がり、俺を凝視した。
目を白黒させ、口がポカンと開いてしまったようだ。
「もう一度、俺とお付き合いして下さい。」
生まれて19年と3ヶ月。
告白は数えるのが面倒なほどされて来たけど、したのはコレが初めてのこと。
告白って、こんなにも勇気がいることだったんだ。
返事を待つだけなのに、時間が長いと思うのも初めての経験だった。

 

        

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