葉桜・浪漫飛行 壱
出会いは至って単純明快。四月。サクラが穏やかに咲き誇ってる季節だった。
「あの、そこ。俺の席なんだけど…。」
入学式も早々と終わり、新入生としてこの学園に入学したての俺は、自分の席に見知らぬ生徒が座っている
のを見て、正直驚いてしまった。
「え、ウソ。」
その生徒は俺より少し高いくらいの身長だろう。でも、さほど変わりはない。
「本当。ここは、都津川あずさの席。」
『たちつてと』の『と』に値する順番は前から3番目のほぼ中央に位置するところ。さしずめ、この生徒は俺の近く
なのは間違えないだろう。
その生徒が立って、自分の席に着いた。今日は天候にも恵まれ、これからの中学生活を暗示するかのように明るい。
(ここから始まるんだ。)
そう思った途端、声がした。
「都津川君。俺の席、キミの横だった。ごめんね、間違ったりして。」
「いいよ。別にそんなに困るってわけじゃないし。」
彼はやはり、俺の近く。それも隣だった。
「俺、川澄岬。岬でいいよ、よろしくな。」
まだ中学生のくせに、やけに男らしい顔つきをしているなぁ。きっと、人に流されずに、自分の意思で行動してきた奴だ。
「こちらこそ。俺も、あずさでいいよ。」
こうして、中学校初めての友達はなかなかの好印象であった。
5月半ばにもはいると、どんどん友達は増え、今ではクラス全員が仲良しだ。
「都津川は、もうクラブ入ったっけ??」
「俺?うん。弓道部のマネになった。」
「弓道部?そういや、川澄も弓道部だよな。お前らいっつもつるんでるからなぁ。」
級友の一人、友坂芯は、思いついたようにうなづいた。
そもそも、弓道部に入ろうとした動機が不純なのだ。
『弓道ってなんかかっこ良い』
ほんと、これだけ。しかもなんか俺までいつの間にか入部していたという、つかの間。
「川澄って、いっつもお前にベッタリだよなぁ。もしかして、ソーユー関係??」
「馬鹿いってんなよ。んなわけないだろ。」
なんて…な。岬の奴、
(あずさ、大好き!俺と付き合って)
ってしょっちゅう言ってきやがる。これじゃあクラスにばれるのも時間の問題だな。
「あ〜ずっさvクッラブ行っこ〜vv」
噂をすれば影。岬は勢い良くクラスに入ってきた。尻尾を扇風機みたいに振り回している犬みたい。
「忠犬ハチ公ならぬ、忠犬岬登場だな。」
「あ、こら。巻きつくな。」
「ん〜あずさって、柔らかくて気持ちいい。いいにおい!」
首に巻きついて俺の首に顔をうずめるから、くすぐったくてしょうがない。
「もう!クラブ行くんだろ。離れろ!!」
一括してやったら未練がましく俺から離れて行った。
「じゃあな、友坂。」
手を振って、教室から出ていこうとしたが、
「おい、都津川、川澄。」
呼び止められた。
「お前らのこと、感づいてる奴いると思うから、特に川澄。気をつけろよ。」
一体何を…
「俺のあずさだ。言われなくってもわーってるって!」
!!いつ、誰が、お前のものになってんだ!!
弓道部が終わって、一年生は道具の片付け最中。弓道部に入部した一年生は俺らを合わせて12人。
その中で俺と岬は弓道専用倉庫で矢を片付けているところだ。
的の材料の和紙にその枠、その他モロモロいろんな道具が転がっている。
「あ〜早く基礎から抜けたいなぁ。藁の的じゃなくてちゃんとした的に打ちたい!」
「まだまだだろ。基礎の基礎をしっかりやらなくちゃ応用はできない。我慢しろ。それができなかったらやめろ。」
口より手を動かせよ。
「わかってるって。来年の中学生大会には出れる様に頑張るよ。」
こいつとはまだ付き合いは短いけど、わかった事がいくつかある。
一つは俺に夢中…な事。本気かどうかは不明だが。
二つは何事にも手を抜かない。
三つは何か目標ができると必ず成し遂げる。
だから、きっと初めての大会には出場できるだろうな。
その時、フと思いついた。岬が本当に俺が好きかどうかがわかること。
壁側で何かを片付けている岬を後ろから優しく抱きしめた。
「!?」
自分からこんな事するのは初めてで、少しばかりドキドキしてしまう。それを何とか悟られないように岬の耳元で囁いた。
「ねぇ、俺のこと、本当に好きなの…?」
「え…?」
突然の質問に絶対心拍数が上がったはずだ。
「うん、大好き。…一目ぼれって言ったら笑われるかもしれないけど…あずさのためだったら、なんだって出来るよ。」
「俺と、キスとか、それ以上の事とか、したい?」
こんな事いってる自分が恥ずかしい。絶対に顔だけは見せれない。…だって赤くなってるんだもん。
「できればしたい。でも、あずさの心が俺にちゃんと向いた時かな。だってあずさの嫌がる事はしたくない。」
岬って、本当に…
「本当に、なんでもしてくれる?」
「うん。あずさが望む俺に出来る範囲なら。 」
ありがとう、その言葉を待ってたんだ。お前を試すようなことをさせるけど、俺を確実に手に入れたいんならやれる。
「じゃあ、明日までにB5サイズの大学ノート全ページに俺に対する愛情を綴ってきた。」
「え!!」
さっきまでのなかなか良い雰囲気は一体どこへやら。俺の要求に目を真ん丸くして振り返ったのは、何を隠そう、岬である。
「俺の事、が本気で好きならそれぐらいはできるだろ?それともやっぱ口だけなのか。」
「明日までだよね。わかった。」
あ、こいつ、目が本気だ。
「さ、もう片付けも終わったし、寮に帰ろっか。」
先に倉庫から出てカギを閉める準備をする。俺に次に出てきた岬は少々複雑な表情をしていた。
カギを閉めて寮に戻る道のり。まだ5月だけあって太陽はさほど沈んではいない。
「何を考えてる?」
「愛の綴り。」
「そうそう、一つ言い忘れ。」
そう言いながら岬の腕に自分の腕を絡める。岬は嫌がりもせずにされるがまま。裏道を通っているので人は少ない。
それにこの学園はソーユーのが結構いるらしいから、こんな場面に出くわしても、多少は平気だったりする。
「それが本当にできたらホッペにチューしてやる。」
「あ、あずさ…!!」
「わ、馬鹿!抱きつくな!!」
そんなわけで、岬が試験を乗り越えるかを見届けようと思った日なのだ。