魅惑のエスコート 4


「俺の誘いを無視して、時間が来たらさっさとカテキョのバイトに行ったんだぜ、高永さん。
信じらんねー。」
「ふーん。お前にしちゃ珍しい展開だな。」
「…ホント、別れようかな。」

大学の近くにある、学生御用達の喫茶店。
値段もお手ごろで学生には払いやすい金額で、俺の通う大学の生徒は頻繁にココを利用している。
勿論、俺もその一人。
喫茶・ミナミ空に鉄を呼び出し、いつもの席で昨日の出来事をグチっていた。
「もうちょっと付き合ったらいいじゃん。それに俺、調べてみたんだけど、あの人の噂、結構あったぜ。」
「噂?」
そんなの、初耳だ。
噂がたつような人には見えないし、かと言って噂をたてるような人でもない…と思う。
歳の割には子供で、顔に気持ちが素直に反映されるのは…少し可愛いとも思う。
「で、どんな噂?」
「ああ。高永さんの実家、地元では有名な総合病院を経営してるんだって。」
「それだけ?」
鉄があまりにも深刻そうに、いや違う。面白がって言うもんだから、それなりの事は期待したのに。
「まだある。最後まで聞けって。それで、その事を知った奴は金目当てで高永さんに近づいたりしてるみたいよ。
高永さんも人を警戒なしに受け入れちゃう性格じゃん。
結構痛い目、あってるみたいよ。」
「でも、あの人、学費以外は全部自分で払ってるって…」
「嘘に決まってるじゃんか。金持ちなのよ、金持ち!あ、誰かさんも金持ちか。
…っていうのは後にして、裏では結構遊んでるって。寮に男がしょっちゅう来ては朝帰り。
夜に高永さんが出かけて、そのまま帰ってこなかったってのもあるし、寮生の奴なら皆知ってるよ。」
「…嘘だろ…?」

信じらんない。あの、疑う事を知らないような高永さんがそんな事をしてるなんて。
そんな事をするような人間には見えない。
でも、俺は高永さんの事を1から10まで知ってるってわけじゃない。
付き合い始めたのもつい最近。
噂が本当であっても、偽者であっても、俺に会うまでの高永さんなんて知らない。
昨日の行動からして、高永さんは少しは身持ちがいいって思ったのに…。
「おっ、噂をすれば高永さん。」
「え…?」
大きなショウインドウから見える大学に通じる通学路。
人がまばらに歩いていて、どこに高永さんがいるのかを探す。けど、探さずにも彼がどこにいるのかがわかった。
かなり目立つ位置で、男ともめていたから。
「あれって噂の男なんじゃない?二股がバレてもめてるとか?」
もめてる男は、明らかに高永さんとは体格差があった。
「まっ、これで正当に別れる理由ができてよかったな。」
力ではどう考えても勝ち目はない。その証拠に手首を掴まれて、身動きが出来ない状態だから。
「結果オーライじゃん…ってオイ!健太、どこ行くんだよっ!」
鉄が叫ぶのさえ聞こうとはせず、気がつくと走り出していた。
「高永さん!」
「け、健太くん…!」
高永さんは俺を見ると少し安心した表情になったけど、困ったように笑った。
「離せよ、高永さんに何か用かよ!」
相手の男と高永さんとの間に割り込むように入り、手をどけさした。
鋭い視線の中に見せる、独占欲の色。
本能的にこの男とはウマが合わないと直感する。
それに俺とハレルぐらいの長身。無愛想だけど意思は強く、小柄の高永さんが敵う相手じゃなかった。
「…ふーん。コレが友行の新しい男、か。」
そいつは面白そうに俺を上から下まで、ジロジロと見回し、煙草を一本取り出した。
「じゃあな、友行。また今度…」
煙草に火を点け、さっさと立ち去るのかと思いきや、男は高永さんを強引に引き寄せた。
そして、高永さんの後頭部を無造作に持ち、俺の目の前であろうことかのディープキス。

「んっ…ぃやっ…」
公共の道端だというのに、かなり長く、俺はあっけにとられて反応が遅れてしまう。
「お、おいっ!!」
引き剥がした時に、男は鼻で俺を笑い、どこかに消え去っていった。
あいつが行った後、高永さんは少し震えていた。
「高永さん、どうしたの?あいつに何かされたの?」
こんな事が聞きたいわけじゃない。
「そこの店、行こ?鉄もいるし…」
あの男は誰?噂は事実?
「ううん、今日は帰る。…ごめんね、健太くん。変なトコ見せちゃって…」
顔は血の気がなく、青ざめていて目に活気がない。
こんな状態の人間をおいていくなんて、俺にはできないよ。
「じゃあ家まで送ります。」
高永さんが断らないうちに、鉄に電話をかけた。
ショウウインドウの中で一部始終見ていた鉄は、軽くコッチに手を振った。
「今日、講義休むから。」
『わかったよ。』
手短に、電話を切った。

 

 

              ←3/back/5→