魅惑のエスコート 5


「ホント、大丈夫だから帰りなよ。」
なんとか高永さんを大学寮まで送り届けた。
出会った時から元気ハツラツの高永さんは、火が消えたみたいになっている。
俺が送るのを断りながらも、俺は彼を強引に送り届けたのだ。
初めて来た大学寮は以外にも俺のマンションからも近く、年代物の割りにはしっかりしてる建物だ。
「高永さんが心配だから、帰らない。」
寮の自室に入るなり、高永さんは崩れ落ちるようにベッドに倒れこんだ。
いくら年上が好みじゃないからと言って、見捨てて帰るほど俺は鬼じゃない。
それに、普通のトモダチとして付き合うなら年上だろーが年下だろーがやっていける。
あくまでも、‘恋人として付き合うのに年上はイや’ってだけだ。
せめて、彼が落ち着いて眠りにつくまで側にいてあげたい。

「…健太くん…」
心細そうに俺を呼んだ。
「なんですか。」
いつ消えても可笑しくない存在に思えるその姿は、ひどく俺を不安にさせる。
「前、訊いたよね。‘俺と何がしたいの’って。」
「…ハイ。」
その質問は、俺が高永さんに投げつけた質問だ。どうしても彼と付き合いたくなくて、そんなバカみたいな事を訊いた。
「フツウの恋人になりたいと思ったんだ…。手を繋いで、優しくキスをしてもらって…」
「…そんなの、いつでもしてあげますよ。」
「一時の夢でもいいんだ…。俺、一度だけでいいから、好きな人と一緒に過ごしてみたかった…」
寮には時代遅れの小さなクーラーがついていた。
弱冷な風が部屋いっぱいに広がり、外との空気を遮断する。
鉄から聞いたあの噂。今、ここで尋ねるのは、彼にとっては酷だろうか。
「…健太くん、」
あたかも子供みたいに目を幼くし、揺れる瞳で俺を見た。
「元気になるまで、手、繋いでてあげますよ。」
俺より一回りは小さな手を握り締めた。
高永さんは、最初ビックリしたような顔をしたけど、次第に表情を柔らかくし、一言「ありがとう」だけを言った。

陽もだいぶ落ち、高永さんと夕食を食べに行くことにした。
あれから少し眠った高永さんは、さっきよりは元気になり、血の色が顔に戻っていた。
彼の手を握っている間に、俺も眠ってしまったらしく、起きたらタオルケットがかけられていたのだ。
『おはよう』
起き立てで、気だるさも加わり、自分の今の状況に判断が遅れていたとこに、声がかかった。
反射的に声をした方を振り向くと、高永さんが立っていた。
シャワーを浴びてサッパリしたのか、いつもの高永さんに戻っていた。
『ご飯、どうする?』
『ん〜どっか食べに行こうか。』
昼間に何もなかったかの様に、高永さんは振舞った。
けど、俺はあの男のコトが気になってしまう。そしてあの噂。
真実かどうかだけでいい。知りたい。
「健太くん、どれにする?」
夜道を会話のないまま歩く事数分。辿り着いたのは駅から少し離れた場所にあるファミレス。
「これ、和風ハンバーグセットでいいです。」
「おっけぃ。俺はコレにする。から揚げ定食。」
注文をして夕食を待っている間、高永さんは楽しそうに話をしてくれた。
昨日のカテキョのバイトの話や、生徒の話。
今、高校2年生と中学一年生の男の子と女の子をみてるそうだ。
俺は楽しそうに喋る高永さんをみてると、嬉しくなった。
何故だかわからないけど、嬉しいのだ。
この人には泣き顔や、不安な顔よりもやっぱり笑顔が一番似合う。
「…高永さん、あの…」
「…やっぱり、訊きたいよね。あの男は誰?って。」
そろそろ本題に入ろうとしている。
俺も、その事が知りたいので、本心を隠さずに正直に頷いた。
「俺って噂立ってるみたいなんだよね。健太くんは、どこまで知ってるの?」
どこからどう話せばいいのか考えてると、タイミング悪く、夕食が運ばれて来てしまった。
料理は美味しそうに湯気がたっている。
「さき、食べよっか。折角の美味しいのが冷めちゃうし。」
はぐらかすわけでも無く、高永さんは箸を持った。

 

 

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