魅惑のエスコート 6


「ふーん、そんなに噂なってたんだ。」
あっさりと高永さんは、あの噂に納得したのだ。
あまりにもあっさりしすぎて、少し拍子抜け。
食事は冷めないうちに頂いて、食後にはコーヒーを飲む。
「で、噂は本当なんですか?」
「どうして健太くんがそんなに真剣なの?」
瞳を軽く細めて、クスッと笑った。
「…一応、現時点での恋人は俺ですから…」
俺にしては言い訳苦しい。俺だって何でこんなに気になるのかなんて、わからないよ。
「まぁほぼ真実だね。」
ホットコーヒーに砂糖をかき混ぜ、一口、口に含んだ。
含んだ後に唇を舐める仕草が妙に色気があり、俺はつい見とれてしまった。
「正確には男遊びなんてしてないけどね。だって全部同じ人だから。」
「…それって…」
「俺んちってさ、地元じゃ有名な病院って知ってるでしょ?翔一が…あ、あの男ね。
その翔一が病院の本当の息子なの。」
「じゃあ高永さんは?高永さんだって息子なんでしょ?」
人の家庭事情にここまで踏み込んでいいものなんだろうか。
もし、踏み込み過ぎていたら、ストップをかけてくれ。
「俺は親父の愛人の子なの。母親が死んで、中学生になる前に高永家に引き取られてね。
よくあるでしょ?本妻より愛人を大切にしたりする、まぁそんなんだったのよ。
俺だって高永家には行きたくなかったけど、当時はまだ小学生。それに母親側の親戚なんていなかったしね。
それで本妻は俺をあからさまに毛嫌いして、顔さえ見せるなって言われて。
翔一は俺を目の敵にして、酷い事を裏ではしまくったんだよ。
…でも、時々優しくて…」

声が薄くなった。

「中学3年の頃くらいから、あいつ、俺を女代わりに抱くようになって…。
翔一、もてるくせに。」

「翔一って、今朝もめてた男でしょ?」
「…うん。あいつ、しつこくってさ。俺、あいつに何されても逆らえないんだ。
逆らったら、逆らった分だけ、仕返しされる。それがイやでもうどうでもいいって思って…。
それに、あの家に引き取られて、初めて優しくしてくれたのが翔一で…
あ、でも恋愛感情は全然ないから!」
高永さんは慌てたように、否定した。
別に、彼の俺に対する気持ちを疑ってるわけじゃないけど、俺と一緒にいる時に他の男の話はされたくないな。
「翔一、未練がましく俺を追いかけて、こっちの大学まで受かって。
俺がなんであの家を出たのか、意味ないじゃんね。」

翔一は高永さんが好きなのだ。辛い目にあっても、最後は笑って許してくれる優しい人。
笑顔を絶やさずに、人の心配ばかりする、根が優しい人。
そんな高永さんに惹かれているんだけど、どう言葉にしたらいいのかがわからないまま、今の関係を続けている。
なんとなく、その気持ちがわかる気がした。
「でも、俺の初恋は健太くんなんだよ。太陽に人を惹きつけてやまない。本当に一目ぼれをしたんだ。」
屈託のない笑顔。
俺を太陽と例えるなら、あなたは向日葵だ。
「…だけど」
「………」
「いくら俺が好きでも、健太くんが年上趣味じゃないのが辛いなぁ。
…俺、一つ下に生まれたかった。」

指を目の傍らで組んで、流れる涙を隠すようにうつむいている。
俺はそんな高永さんに何も言えなく、ただ見てるだけしかなかった。
いつもの俺らしくない。いつもならサッサと一人で店を出たり、軽く慰めたりするのに。
でも、高永さんが泣くと、どうしたらいいのかがわからないのだ。
この胸が軋むような痛みは何だろう…。

帰り際、俺は断ったのに、高永さんは駅まで送ってくれた。
「一人で帰れますから、大丈夫ですって。」
「だって健太くんみたいないい男が夜道を一人で歩いてたら、女も男も寄ってきて心配じゃん!」
それを言うなら、高永さんの方が心配なんだけどなぁ。
知らない人にでも、ホイホイ付いて行っちゃいそうで…。
「じゃ、ここまでだから。」
「はい。ありがとうございました。」
「健太くん、…さようなら。」
「また明日…。」
この時、気にとめていなかった別れの言葉。
後々になってから、俺の心をかき乱すようになるとは思いもしなかった。

 

            

 

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