君の楽譜、僕の音色V

 

「お〜い葉山〜、次移動だぞ〜。」

「え?」

突然頭の上からかけられた声に、一瞬目が丸くなってしまった。

「…移動?次って何時間目?」

「6時間目。」

って事は昼を挟んで僕はずっと、曲を作ってたってこと?…恐ろしい。

「で、葉山は授業中ずっと何をしているんだ?」

少し興味ありそうに、章三は僕の机を覗き込む。う〜ん、我ながら汚い机になってしまった。

「曲を、作っているんだ。」

「曲?ずっとソレを作っているのか?」

不思議そうに訊く。僕は章三と喋りながらも移動教室の準備をする。えっと、次は…げ、嫌いな物理だ。

「そうだよ。期限は今週の土曜日。」

「なんだ、ギイにでもあげるのか?」

ギイ、と聞いただけで心がズキっと、ナイフで刺されたかのように痛む自分がいる。

最近の僕、絶対変だ…

「…違うよ。知り合いの人に頼まれただけなんだ。」

どうして、こう、章三に説明するだけなのに、言い訳をしてる気分なんだろうか。

「ふーん、まぁ頑張って下さい。さ、それはそうと早く支度。」

まるで自分がギイを裏切ってるようで気分が悪い。どうして、こんな気持ちになるのは…

 

放課後、僕は植物に水をやるついでに途中まで出来上がった曲を弾いてみた。

イメージは雲。水穂さんのイメージが雲なのだ。優しくて、広大な心を持ち合わせてる美しい人。

キレイな心で暖かく見守って、一緒に頑張ってくれる、そんな感じの人なのだ。

数分間、楽器を弾きつつ、自分の音に集中した。なんせ初めて音にするもんだからね。

今の所、僕が聞く限りでは少しの修正がいりそうだ。

弾き終わり、一息つこうといたら入り口の方から拍手が鳴った。振り返って見てみると、そこにはキレイなシルエット…

「ギイ!」

「良い曲だな、タクミ。章三から聞いたぞ、曲作り。」

ああ、情報が早いのなんの。

「うん、そうなんだ。でも聞いてたのなら、声かけてくれたらよかったのに。」

「だってタクミ、嬉しそうに弾いてたから。邪魔するのがもったいなくて。」

王子様のような笑顔で、僕に話し掛ける。ギイが邪魔なわけがないじゃないか!

「今日は15分だけです、タクミくんv」

15分、ギイは待ちかねたように僕を抱きしめた。久し振りに、彼の香りに包まれた。この香り、すごく好きだなぁ…

思わず、目を細めてしまう。

「タクミ、一回だけ、その〜いいか?」

ギイにしては珍しく、遠慮がちに聞く。

「くす、変なギイ。一回でいいの?」

「あのな〜タクミ。俺自身の歯止めがきかなくなったら15分じゃ足りないぞ。」

「そうだね…。ギイ、僕もずっと一緒にいたくて離せなくなっちゃう…」

「可愛いことを言う。」

何回か、久し振りにキスを交わした。久し振りのキスは甘くて、ドキドキして、僕を虜にしてしまう。

ギイの腕な中は暖かくて、とても安心できる。僕の、好きな場所。

「あ、タクミ、ごめん。タイムリミット…」

名残惜しそうにギイが僕から離れた。どうして幸せな時間って、こんなにも過ぎるのが早いのだろうか。

「…うん、ギイ…。好きだよ…」

ギイの事が好きで、どうしたらこの気持ちをちゃんと伝えられるのだろうか、わからない。

けど、やっぱり‘言葉’なんだよね。

「俺もだよ。」

僕にウインクを飛ばし、軽やかな足取りでギイは温室を去っていった。

…次はいつ、会えるかな?

 

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