神様がいないとしても…3

 

 

 

 

 

俺はあんなことをした犯人を許したわけではない。
あの後、何度か美術室に入り、何回も犯人の手がかりを探した。何か記憶は残ってないか。
そしてついにアレを発見したのだ。犯人が落としたと思われる唯一の手がかり。
プラスチックで作られているんだろうか、白い付け爪のようなもの。
指に嵌める環が爪についていて、嵌めてみると指の第一関節ぐらいまでは入る。
今の俺は、これが何に使われるのかがわからないが、後ほど知ることになるのだ。

 

「清水、コレ津田に持って行ってあげて。」
帰り支度をしていると、差し出されたのは一冊の本。
その本は、この間津田に持っていった続きのようだ。
いきなり本を渡された、ついつい本と小笠原の顔を交互に見てしまう。
「直樹、帰ろうぜ。」
「矢田、ちょい待ち。小笠原、ならお前も一緒に行こうぜ。その方がアイツも喜ぶと思うし。」
そう提案すると小笠原は、少し困ったように目を細めた。
「俺、今日は用事があるから…ムリ……なんだ…」
「そっか…残念だな。」
申し訳なさそうにする小笠原を見ていたら、無理強いなんてできない。
「それじゃ。」
小笠原は俺の『バイバイ』をも待たずに、教室から出て行ってしまった。
アイツって、あんなに……
「何なに、何の本?」
「津田に渡しに行く本。」
「津田に会いに行くんだ!俺も行く!久しぶりに、学校のお姫様の顔を拝見したいし。」
津田はおちゃらけた調子で俺から本を取り上げ、中身をパラパラとめくった。
本当は、小笠原とも行きたかった。津田が入院して、初めて俺の視界に入って来た小笠原和月。
無愛想で、無表情で、近寄りがたい奴だけど、嫌な奴じゃなかった。
人より感情を表に出すのが苦手なだけで、俺らと同じ高校生だ。
一緒に図書委員をやってたら、アイツの見えない部分が少しずつでも見えてきたんだ。
俺の周りには、小笠原のようなタイプは初めてだからか、ついつい見入ってしまう。
津田に会いに行けるのは嬉しいのだけれど、今日は小笠原といたいと思ってしまう。
…俺はいつの間に、津田より小笠原を優先するようになったのだろう……

 

夜の八時頃、小笠原家。

俺は自室で問題集を解いていた。ページが進むにつれて今日の帰りの出来事を思い出してしまう。
津田が好きな清水。清水が好きな津田。
二人は両思いなのに、いったい俺の入り込む隙間なんてどこにある?
「……本当、馬鹿みたい」
悲しくなり、シャーペンを机に置いて、窓から見える月明かりをカーテンの間から盗み見た。
神様、いないとわかっています…もし、いたとしたら…
その願いさえも馬鹿らしくなり、カーテンを閉め切った。
「少し、休憩しよ。」
自室から台所へ行き、甘いココアを作り終えた時に、電話は鳴った。
今日は祖父を祝うために親戚中が祖父の家に集まる。それは、俺の家も同じ事で、俺以外は全員出払っている。
俺は、勉強をしろ と祖父直々の命により留守番なのである。
その方が有難い。あんな式に出ていたら、神経が磨り減るのがわかるもん。
「はい、小笠原です。」
『あ、和月?俺、津田です。』
「ああ、津田。どうしたの。本、間違えた?」
津田からはたまにだけど、こうして電話がかかってくる。
俺の事を‘友達’として見てくれてるから、無碍には扱えない。
『ううん、今日ね、直樹が俺に会いに来てくれたんだー!めっちゃ嬉かった!…矢田も一緒だったけど。
直樹が早く良くなってねって。…俺、嬉しい。』
「…………」
醜い嫉妬。
「…ああ、その事ね。別にいいよ。津田は清水のこと、大好きだもんね。」
電話越しでよかった。
俺の顔は、彼らを祝福できない。
『もう、大好きv早く付き合いたいvv』
いいね、津田みたいに素直だったら。
「…大丈夫だよ。清水も…津田の事好きだから…」
『本当!?退院したら、ソッコーで告白する。小笠原、ありがとうvv』
元気良く切れた電話とは裏腹に、俺の心は冴えない。
出てくるのは、嫉妬と…ため息ばかり…。

 

 

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