神様がいないとしても…5
「それでさ、小笠原あんまりやった事ないって言ってたけど、結構筋はよかた。」
『…ふぅーん…』
帰って来てからすぐに津田からの電話があった。
「今度、皆で行こうぜ。あ、退院祝いも兼ねて飲み会なんてどう?」
『…そうだね。じゃあそろそろ消灯だから切るね。バイバイ。』
一方的に切られた電話に俺は、さよならさえ言えていない。
津田の様子が可笑しかったのは、気のせいだろうか。
首をかしげながらも、電話をかけ直すなんてできないので子機を定位置においた。
「っんーー!今日は楽しかった!!」
背伸びをしてから俺はベッドに飛び込んだ。
「早く明日に…ならないかな…」
「和月、準備は進んでおるか。」
「はい、進んでおります。」
俺は祖父の部屋に呼ばれ、正座をしたままお辞儀をした。
この部屋は昔から緊張する。
息がつまるようで、呼吸困難に陥りそうな感覚になる。
上座に祖父は腰をかけ、膝には愛猫がまるまっている。
「約束の日まであと数週間あります。それまではどうか、私の好きにさせてください。」
見るのでさえ緊張する祖父の顔を見て、俺は必死に願った。
アンタのために俺は自分を犠牲にするよ。
好きで、なるわけじゃない。この家に生まれた宿命なんだろ。
「和十のいる学校だからまだ安心しておる。何かあったら、和十に頼めばいい。
披露目会の準備も整っておるんだろうな。」
「順調であります。」
ウソつけ。大切なものを無くしたくせに。
早くアレを探さないと…。
俺は再び挨拶をして、その部屋から出ていった。
日に日に怒りが風化していくのを、俺は感じていた。
もしかしたら夢だったんじゃないかと思う。
でも、確かな証拠が一つある。
あの後、犯人の手がかりにつながる物はないかと、必死に這いつくばって探してたらそれらしきものが見つかった。
乳白色の付け爪のようなもの。
怒りが風化していくからって、犯人を許したわけではない。
強姦だなんて男だろうが女だろうが、決してされてはいけないし、してもいけない。
俺はされたとしても、男役…というのだろうか、いいや、それでもいけないものはいけない。
ポケットの中でソレをいじくってると、小笠原が登校をしてきた。
「おはよぅ。」
「ん、おは…」
ボーっと席に座ってるだけだったので、チラ見をした小笠原に一瞬、驚いた。」
いつもと違う雰囲気を出していたんだ。
コンタクトを忘れた時とは全く別の雰囲気を、だ。
今回は何故か、直視できない。
「お、おい。お前、なんかあったのか?」
「え…?何かって、なに?」
鞄を開けて教科書を出すその手でさえ、生唾を飲んでしまう。
「今日のお前、変に色気がある。」
思った事を口に出すのがやっとで、右手で口を押さえた。
「ふふ。いつもの俺だよ。変な清水。」
自然と笑った小笠原に、俺はやっと気づいた。
俺は、コイツの事が好きなんだ。
津田よりも傍にいたいと思った。
その気持ちを自覚した途端、急にその場に居たたまれなくなり、トイレに行くふりをして逃げてしまった。
まさか、こんなにお前が可愛く思えて抱きしめたいだなんて思う日がくるなんて、夢にも思わなかった。
最近ずっと小笠原と一緒にいるけど、やっぱりわからない事だってある。
それは、昼休みになると一人でどこかに消えてしまうこと。
図書当番でもないのに、一体どこに行くんだろう…聞いても教えてくれなかったので、悪いと思いつつ、コッソリとあとをつけてみた。
俺って少し危ない?なんて思っていながらも、あいつの事だから気になるんだよ。
「和十さん、和月です。」
たどり着いたのは化学準備室。
そこは化学教師の源和十が使っていて、生徒にしては近寄りがたい場所である。
「和月、入っておいで。」
吸い寄せられるように小笠原は入っていき、扉が閉まった。
そこから先は侵入禁止と言わんばかりの空気が流れて、俺はどうしようもなかったのだ。